ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

出来事

失敗とともに生きる。

先週まで続いた仕事のタフな調整が終わり、気が付けば例年恒例のハーフマラソンの一週間前だと気づいたのが月曜日のことである。 この春以来、フィジカルの調整不調続きで、あまつさえ骨折なんかしちゃって、自転車の季節は最低な結果を出し続けて過ぎていっ…

バイタルサイン。

観測史上最速で梅雨が明けた6月である。最後の週末、外を見ると緑は濃く、深く盛り上がり、第1世代のRC高層建築物であるマンション群を包み込んでいる。景色は既に夏の様相を呈している。夏です。夏が来たんです。 ちょっといろいろとあって、年末から5月末…

FM81.7「ひみつ基地」放送。

古ぼけた校舎は年末で人影もなく、足音ばかりが長い廊下に響く。非常勤講師控え室はかび臭く、動くたびに埃が舞い上がって、それが外からの照らされて光の筋をつくる。 「うわ、ひどいねえここ。中目黒くん、使うんだったら掃除してくれればいいのに」 「余…

東京生活に慣れる。

日曜日、ヒルクライムレース出走。昨年より30秒近くタイムを落としたけど、原因は解っているので落胆はしなかった*1。帰りは久しぶりの関越道日曜渋滞に嵌まって、そうそう、こんな感じだったよ週末の遠征って、という変なノスタルジーに浸りつつTOKYO FMの…

夏のある日、北へ。

金曜日、仕事を早々に切り上げ、板橋物置部屋に戻る。引っ張り出したのはオレンジ色のdeuterのtrans alpine 30。こいつの特徴は中が2気室に分かれていることで、ランシューズを下に、着替えと電装を上にパックする。バッグの上部にオリーブドラブのパッチが…

微熱はつなつ。

風には夜露の湿り気が混じっていて、初夏の香りがする。広い駐車場の真ん中に水銀灯が円錐形の明かりを投げかけていて、それに照らされてうずくまる深夜高速バスは週末の客を満載している。 東北から東京に戻ったのはこの春のこと。板橋物置部屋は手狭で(何…

窓さんち。

レガシィに火を入れて暗い国道をすっとばす。およそ100キロの先、沿岸に窓さんちがある。 「よく来たねぇ」 新築の香り立つカウンターの向こうからひょっこり顔を出した窓さんは、人懐っこい笑顔で迎えてくれた。 津波に洗われた街に、窓さんは新しい米屋…

僕らの歌をうたおう。

映画館を出たら、夕暮れだった。 キリツグが観たのは暗い映画だった。監督は、明るい冒険活劇を作っている場合じゃない、今は絶望的な状態なんだから、的なことを発言して小難しい映画を作るようになってしまった巨匠だ。 その監督がどんな風に時代を眺めて…

バイタルサイン。

最近のことを手短に。 同じ環境を与えても、楽しむ人間とそうじゃない人間がいる。僕は明らかに前者で、それは自分の性格というか気質の得なところだと考える。兎に角、楽しすぎて幸せだ。それは、たとえスペクタキュラーでトラブルフルな状況に追い込まれて…

FM81.7「ひみつ基地」放送。

あーあー、(ゴツッ、コンコン) 「先生、もうカフ上がってます」 「あれ、これがアップなの?じゃこれは…」 「フェイドアウトしました先生」 「…さて、皆様年末いかがお過ごしですか。中目黒君もお久しぶり。ずいぶんと会っていないね」 「先生授業しなくな…

こんな夢を見た。

平日の朝なのに、僕は地下鉄のホームで通勤客を見送っている。隣には涼音が立っている。僕らはまるで、通園する園児を見送る両親のように、時折背伸びしたりしながら、人の流れを見ている。 有楽町線桜田門駅は、官公庁最寄りの駅ということもあって、ダーク…

木下先生の部屋。

「先生、異動なのですって?」 「やあ中目黒君こんにちは」 「聞きましたよ。何ですか公安に異動って」 「ほら、小野ケ森さんが帝都公安本部に行っていたことがあったじゃないか。あれだよ」 「先生警察官になるのですか」 「帝健からの出向なんだけど、一応…

風を捕まえろ。

夕方、きんきんに冷えた上に乱暴な風が吹く事務所前の道を、首をすくめて河川敷に向かう。あそこに行けば空気の流れは複雑じゃない。向かい風か、それとも追い風か。 最近使っている前照灯は明るくて、夜に走るときは心強い。水銀の湖の上を滑るようにゆく小…

rambling cats.

新聞を取ろうと板橋物置部屋の分厚い鉄の扉をあけると、風が渦をまいた。寒い朝である。 近くの工事現場の番小屋脇には旗竿が建っていて、クレーン作業用の吹き流しは真横に泳いでいるから、風速は多分、8メートルから10メートル。そして西風だ。つまり、追…

くちゆくものたち。

沼田ICから尾瀬方向に延びる国道120号線沿いに、ペンキ看板が何枚か掲示してある。曰く「オルゴール館」があって、「15種類のソフトクリーム」も食べられるドライブインがこの先にある由。楽しげな内容な割にはペンキの剥げ具合などうらぶれた雰囲気を醸し出…

FM81.7「ひみつ基地」放送。

みなさんどーもお久しぶりです。中目黒君は年末年始の長期休暇を利用して家族とグレートバリアリーフに行ってしまっているので、今年はひとりの放送です。 今年は何といってもスキーで起こした頸椎および胸椎の骨折騒ぎがトップニュースです。生まれて初めて…

剛田派宣言・あるいはマヤ暦の向こう側。

練馬区某所の空き地に集まる人々。積み上げられた土管の上には旗竿が立ち、黄色地にオレンジの稲妻のシンボルが入った旗が翩翻としている。 やがてひとりが立ち上がり、旗竿の下で胴間声を張り上げた。のび太くんは歳をとりません。何故か。いうまでもなく、…

熱帯夜。

深夜1時の立体駐車場。通路の両脇にはアヌビスの彫像のように整然とうずくまる車達。神々の眠りを妨げないように足を忍ばせて歩いた。 レガシィのエンジンを始動し、アクセルを緩く踏み込む。セカンドでエプロンから滑り出て、中山道に合流すると、スカイラ…

晩夏ランブリング。

訳の分からない指示を出し、職場を混乱に陥れる。話し合いの内容を3割しか記憶せず、それを基に話すと相手に2割しか伝わらない。そんな上司を、木下は苦笑いしながら「ぬえ」と呼んでいる。 蝉も鳴き嗄らす水曜日の夕方、ぬえ対策にアタマを抱えていた木下の…

サマータイム・ブルース。

通院で切り刻まれた木下の夏期休暇は残り2日で、CTの画像を診ながらうーん、と唸っていた医者が、次は11月にいらっしゃい、と告げるに至って、やっと好きに使えることが確定した。 自由な時間を手にしてみれば、さて何をするか考え込んでしまう。自転車の遠…

髪を切る。

世の中はオリンピックだという。 金曜日の夜は粘っこいクライアントとの折衝のあと、志摩に呼ばれて新宿センタービルの銀座ライオンでビールをいただいた。 疲れていたので早めに切り上げ、むしむしした大気の中泳ぐように板橋物置部屋に帰ってきた。スーツ…

戸惑いの午後。

外に出たら夕焼けだった。 本社で打合せが終わったのが17時、昼ご飯を採り損ねた胃袋は海産物を要求していた。馴染みの寿司屋が開く時間には早い。馴染みでない寿司屋には入りたくない。あまつさえ区部北辺の職場には残業が控えていて、新宿を彷徨(うろつ)…

帝都徘徊再開(おそるおそる)。

ちょっと木下先生、大丈夫なの?とは小函さんの第一声だ。久しぶりの「あぶらつぼ」は相変わらずの閑古鳥で、入り口脇の水盤に冷やしてある瓶ビールが客待ち顔だった。あらあら、そんな風でお運びいただいちゃって、大丈夫だったのかしら。もう馬場崎さんは…

あぶのーまる・ばけいしょん。

頸椎の固定も上手くいってるし、ま、いいでしょ、と主治医が退院許可を出した。ただし、数週間は自宅療養すること、という条件付きで。 「ふーん、いいご身分ですねぇ」と、ワイシャツに黒のチョッキを羽織った中目黒君は枯れかけた見舞いの花を千切っている…

冬への扉。

今日はつらつらと手術の説明を聞いた。避けようのないリスクについて覚悟をせまる内容で、能動的回避策なり別の選択肢の提示なり、クランケが主体的に生存可能性を上げる行動に繋げられる情報ではなかったので、知識として興味深い部分をしっかり吸収して(…

あなたの物語。

点滴。絹ずれ。寝息。ナースコール。スリッパ。ひそひそ声。何かの計測機器が奏でるアラーム。午前2時のHCUは音に満ちている。そんな中、木下未来はスタンドライトに照らされて、規則正しく呼吸を続けていた。表情はなく、ただ機械的に息を吸い、そして吐き…

木下先生の部屋。

「だ、誰?」 「誰っていうあなたは誰…かと思ったら中目黒君か。どうしたんですかその短髪は」 「あ、木下先生。いったいどこに隠れていたのですか」 「いやちょっと帝健の方がばたばたしていてね。半年ぶりくらいかな」 「多分、それ以上です。もういらっし…

だんだん。

4月1日にはもう、元の生活に戻っていた。地震がくるたびに山鳴りがしていた仮設住宅での2か月は、もう過去のもの。窓さんと毎日出張のときにしていた馬鹿話も、現業さんに「嫁の来手がいなくなるから、大概にしときなさいよ」と大笑いされた手料理自慢も、な…

さよならさんかく。

木下さん、あのね、と上目遣いに梨元さんが僕に話しかけたのは、松島駅の連絡通路、乗り換えに急いでいる途中だった。 なぜ僕らがそんなところにいるかといえば、これは職場旅行で、しかもそれは東京から鈍行で鳴子温泉に来るという乗り鉄のボスが鉢巻をして…

Life goes on.

窓さんは、僕らの班についている運転手さんだ。ひょうひょうとした物言いで僕らとバカ話ばかりしている。 「ガラス瓶を暖めて、そこに刻んだ葉わさび入れるっしょ」 「はい」 「そこにお湯入れて、間髪入れずにふた閉めると、風味が逃げないのさ。そこにめん…