ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

木下先生講義録

先日ロッキー・ザ・ファイナルを観て感動いたしました。(ロッキー、と板書)還暦すぎたおっさんが痛いほどがんばる映画で、その前のめり振りには息子も気圧されまくりです。でも、あっちの方がいいですねロッキーの最初の奴。思うに貧乏とかコンプレックスとかと真っ当に対峙しているほうが等身大のスタローンなんですね。だから成功する前のロッキーの「僕は勝てない」というつぶやきは我々の心に迫ってくるし、成功した後のお手伝いロボットを侍らせるような成金感は鼻持ちならない感情しか残さない。
ロッキー・ザ・ファイナルの興味深いところは、過去の栄光に引きずられ、今は落ち目だというコンプレックスをストーリーの推進エンジンにしていて、いわばロッキーの最初の奴と双子の構造をしていることです。過去の一時期の栄光を軸とした線対称構造。片方ではエイドリアンとつきあい、片方では死別する。食肉貯蔵庫でのトレーニングや生卵一気飲みの原点回帰的なイコンもちりばめられている。そりゃファイナルだよ。これは完璧な相似形なんだ。もう何も付け足されないことを先生祈ってます。

で、本講義で教材に使うのもロッキーのテーマなんですな。作曲者はビル・コンティ。この人が作った中では今のところ一番有名な曲です。正式タイトルは"Gonna fly now"だけど、誰も知らないよねそんなの。
最初はファンファーレ調に始まります。軽快で勇壮で端正。アウフタクトで、弾むようなイントロです。でも4小節目からすぐに翳りが入ってくる。前奏終わりの低音パートで今までの弾むリズムを引きずり下ろすような厚いFとEの2音が入り、「これは決してお気楽な物語ではないんですよ」という宣言がなされる。あとは単調なEとAの間を上ったり降りたりのテーマが続くのだけれど、これはストイックなトレーニング感をうまく表しています。実際そういうシーンで使われるBGMなんですよ。観てみましょう。

この曲にはいくつかバージョンが有るのですが、トランペット奏者のメイナード・ファーガソンがナイフの切れ味を持つ超絶高音で煽るやつは、先生個人的に思い入れがあります。昔AFNがまだFENだった頃に、22時くらいから洋楽を流す番組があって、そのエンディングがこのバージョンだったのでした。だから布団の中のトランジスタラジオの匂いを思い出してしまいます。

イントロがより華やかになっているほか、よりノリノリ感が強くなっているんだけど、ロッキーのハングリーさや戸惑い、思い詰めた感じが薄れちゃっていますね。先生は最初に紹介した奴のほうが好きです。

さて、がらっと趣向を変えて、次はこれです。

全くの素人が歌うWild Mountain Thymeなんですが、良い味出してますよね。投稿者の弁が素晴らしい。夜に眠れないとき、車でその辺を走ったりしてリラックスするときにかける曲なんだとか。それが出来ないとき用のビデオなんですって。で、この映像です。季節は晩夏くらい、夕方です。まだ厳しい昼の光も弱まり、でも大地はまだ火照っている。暇をもてあまして買い物がてら何となく車を走らせている。窓は全開で、心地良い風が吹き込んでくる。カーステレオからお気に入りの曲が流れている。窓から手を出して空気をなぶってみる。いちいち共感出来ます。
ギターをかき鳴らす音とロードゴーイングな映像ってすごく合いますね。この共感できる意識というのが、より一般認識としての汎用性を持ってくると訳曲の翻訳言語のパーツになるんだ、というところポイントです。これ試験に出ます。

はい、久しぶりに講義したら先生疲れました。次回は松任谷由実をやりますので、しっかり予習してきてください。日直号令!