ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

夕暮れの街

昨日のこと。
突発的に資料収集と調整をする必要にかられて、単身築地に。一昨日3時間掛けてねっちりと交渉相手のキーマンであるネゴシエーターに脂を搾られるような一方的打ち合わせをした結果、交渉決裂の寸前まで行った案件の内容を項目毎に分け、トリアージするための準備。当然足取りは重くて、いつもは全然苦にならない日比谷線でも座ってしまいたくなる。
半ば愚痴のような、笑いを取り混ぜた状況説明が奏功したか知らないけれど、打ち合わせは爆笑と気持ちよい緊張の中で、「がんばろ」という話になる。資料も揃えて、一息ついて、さて帰ろう、と歩いていた。街は夕暮れ、歩く人たちも微風に肩を押され、カゲロウのように群れ動いている。
そのとき一瞬風が止まって、17時を知らせる鐘の音が街を覆った。
駆けていく子供達。歓声が花になって涼しい空気中にはじけて散る。我が子を呼ぶおかあさん。柔らかい毛布のような声がやんちゃ坊主を追いかける。世間話しながら慣れた手つきでくるくるとビニール袋を巻いて渡す豆腐屋。水滴がブロンズに光る。遠く近く見える再開発について談笑している、疲れた顔のサラリーマン。立ち上る煙のようにのんびりと響く会話。思い出したように漂う潮の香り。立ち止まる老婆。人、人、人の波。薄暮の中、落ち着いた色合いのモザイクみたいな風景の街。
ああ、この街好きだな。
なんだろうな、そのとき、僕は東京を抱きしめたかったんだ。不思議だけどそんな気分だった。