ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

落ち着いて仕事もできやしない。

本業が全くといって良いほど動かない日々が続く。丹念に周辺を埋めて、兵糧攻めにするか堀が埋まりきったところで大阪の陣のごとく攻め入るか、とにかく持久戦の様相を呈してきた仕事に、短期決戦が得意な局地戦闘機的キャラクターの僕が取り組んでいるのって、何かちぐはぐだ。係長はネゴシエーターとしてターゲットの本丸に乗り込んで少しでも態度の軟化が引き出せないか抵抗を試みている。つまり、仕事がやばい。
クリティカルヒットを生み出す可能性の低いアイテムを調べに、帝建の本社に行く。去年まで僕が11年間通っていた建物だ。そこでの友達から資料を借りて、内容の説明を受けながらコピーする箇所に付箋を貼り付けていた。今日の午前中のことだ。案の定なまくらな刀を発掘してがっくり来ている僕の脇を通りかかったY先輩が肩をたたきながら「よっ、木下。何やってんの。最近見ないけど」と声をかけてくださる。
「僕異動したんですよ。いまプロジェクトSの最終シーケンスをまとめてるんです」
「へえ、頑張ってな」
という会話が終わるか終わらないかのうちに駅伝でチームを組んだE君が「木下さん、来月25日よろしくです。今度は上位3位ですからね」と話しかけてくる。よろしくね!と返事して、コピー機で複写を始めると今度はK女史が「北山とおでん食べてたんだって?上野で目撃されてたわよ−」とにやにや。長年アルバイトしているTさんがそこに加わってひとしきり近況報告。
やっと複写が終わって、渚の友達にお礼を言って歩き始めると、そこには昔の上司が立っていて、「おーい、資格試験どうだった」と呼び止められる。いやー1点を争ってますよ、と愚痴めいた報告をしていると、ひらひらっといたずらっぽく手を振るN女史。「こないだ阿南君達と行った焼肉、美味しかったね。またねー」なんて。上司の前で焼肉話をしないで欲しいんだよなーと肩をもむと昔の上司は「じゃ次は結果報告会で焼肉行こうよ」とにこにこ。
とりあえず用事は済んだ。しかしここまで声をかけられると、もうひとつ上のフロアにある去年まで僕がいた席の周りにも顔を見せておかないと、あいつ来たのに挨拶がなかった、みたいな話になりかねない。次の打ち合わせまで余裕は30分。適当に切り上げようと思って上のフロアに向かうと、去年までのチーフは「おう、あの案件とりあえず説明会開催したからな。あと裁判は膠着状態だ」と気さくに去年の僕の仕事の今を教えてくれる。やっぱり去年もガリガリ進められない案件をやっていたよなーと思い出しつつ、対外折衝相手の近況なんかを訊いていると、そこに数年前に派手に仕事を進めることに成功したプロジェクトEWの対外折衝の相手が現れて、「木下さん何やってるんですか、懐かしいな」と握手してくる。そういえばEWやってたときに並行して進めてたプロジェクトOが成功裏に終わったって新聞に出てましたね。今度打ち上げしましょうよ。という約束をする。振り返ったら、そのときにプロジェクトチームを組んでいた元同僚が、「じゃ帝建サイドでも打ち上げ段取っとくから、明日明けといてください。リーダーも呼んどくので」なんて言ってくれる。
別れ際にはみんな口々に「またね」とか「頑張って」とか「こないだのカードの負け、精算できてないぞ(苦笑)」とか「早くギブアップしろプロジェクトSなんて(黒笑)」とか、風のように一言置いていく。
みんな、
みんな、
みんなひどいよ、次の打ち合わせに遅れそうじゃないか(こっそり涙目)。
嗚呼サラリーマンって。