ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

ベタな恋愛映画を観たくて。

「僕の初恋をキミに捧ぐ」を観にシネ・リーブルへ。
週末ずっと家にこもっていたせいでフラストレーションが溜まっていて、青猫で走りたく、というかもがきたくなったのである。
絶対、お勧めしないし、自転車も人も壊れる可能性がある乗り方(特に冬はやめた方が良い。筋を痛めるし、筋は歳をとれば治りづらくなる)なのだが、アップもほどほどに、いきなり坂にハイ・ケイデンスで立ち向かう。心臓がびっくりして、ハートレートは一挙に160くらいに跳ね上がる。身体がついてこない状態がしばらく続いた後、ゆっくりと順応が始まる。まだ坂は続いているのだが、ジューッ、という音がして心臓が血液を筋肉に向けて送り出す感じがすると、筋肉が急激に暖まり動きやすくなる。スピードが乗ってきて青猫がしなやかに動くようになる。これが気持ち良いのだ。
板橋物置部屋から池袋西口まで、ぴったり30分である。18時20分にドアを乱暴に閉め、バンピーな道を軽くバニーホップしながら(これもあまりおすすめしない。青猫は基本的にサス無しのMTBみたいな作りなのでやるけれど、ロードバイクでは本来やっちゃいけない)川越街道を東進し、メトロポリタンプラザの裏、お気に入りのスポットに青猫を縛り付け、クリートを鬱陶しく思いながらエレベーターに乗り、8階で降りて、カウンターでもじもじしながら、
「僕の初恋一枚下さい」
といって、お姉さんにちょっと笑われてから自分の発言の面白さに気づいて苦笑し、がらがらに空いている館内をねめ回して一番被害の少なそうな席を確保(この手の映画だと必ずずっと喋っている男女がいるし、盛んに動いたり、トサカ頭やアフロ頭などの自己顕示的スタイルと高い座高で真後ろで観る人の画面の30%程度を奪ったりする男がいるのが常道だからだ)し、薄手のウィンドブレイカーを脱ぎ、携帯の電源を落とすついでに時刻を確認したら18時54分だったのだ。
さて、どんなベタベタな映画かなーと思って観たのだが、正直、まっっっっったく感情移入できずに終わった。さて、ここから怒濤のだめ出しワールドが始まるのでたたむ。

  • まず、この映画はマーケ的にT層狙いらしいので、それを差し引かなければフェアじゃない、と思う。思うけど、10代の僕もこれは文句をつけまくるだろうな。ストーリーが少女漫画なのである。まあ、少女漫画が原作なのだから仕方がないし、そもそも少女漫画の実写化を狙ったのだろうから文句をつける筋合いではないのだろうが、恋のライバルがヒロインを「姫」ってずっと呼ぶのがもうなんていうか、ジャスフォーである僕には耐えられなかった。
  • 舞台がひどい。全寮制のハイブロウな高校という設定らしいのだが、男女寮が簡単に行き来できる距離(しかも校内)にあって、簡単に抜け出して夜デートが出来る程甘甘な管理体制の学校なんて、校内カップルの子供が生まれまくっちゃって大変だろう。それに今日日校内でセックスなんかしちゃった暁には、防犯カメラにばっちり写っちゃって教師達のいい酒の肴になるのがオチである。少なくとも狸穴はそうですけど何か?ええそうですとも、僕は汚れてますとも。しかしね。こんなおもちゃめいた考証で出来上がった映画を与えられる子供達も悲劇である。現実ってこんなちょろいもんだと思われたら馬鹿しか出来上がらない。現実問題、子供達はもっと面倒で理不尽なシステムに晒されているのだ。それを乗り越えて恋愛なり不純異性交遊なりしてくれるのであれば、ある意味拍手喝采だったんだけどな。
  • あと平井堅を主題歌に据えればそれなりに悲恋ものとしてまとまるだろうっていう認識も甘い。がっかりだ。
  • 実はこの映画の感想は、ヒロインの髪型が汚ねぇな、というところでほとんど決まってしまっていた。髪質もあると思うのだけど、ゆるふわカ〜ルの髪にシャギーを入れて胸まで垂らすのって、中途半端にざんばら感が出てしまって、制服の上にのせると汚らしくなって見られたものじゃないのだ。ファッション的には、制服を着る、というのは規律を守れますよ、自己抑制が出来る人なんですよっていう信号を出すことである。特に最近の女の子の制服は、ソビエト連邦の官給品的だった昔の制服と違って、抑圧の象徴というよりはそっちを絶妙なバランスで発信するから可愛らしいのである。それを崩すのがなにがしかのアイコンになることもある。が、何をやっても不潔なのは受け入れられない。特に女性は。あの髪型をやっていいのは、もっと大人になって清純派を諦めた若干疲れめの小悪魔であって、悲恋の高校生がするもんじゃない。
  • 井上真央をけなす気は、実は髪型以外はない。僕はこの子のへの字口や、視線をちょっと横にずらしながらの上目遣いは、癖としては好もしいと思っている。コメディエンヌをやらせたら絶対光ると思うのだけどな。奈良美智的な可愛いひねくれ者で、しかもドジばかりで、内気で陰湿で、負けん気をあまり前に出さないキャラをしたら受けると思うのだけど。三谷幸喜あたりにいじらせたら楽しいと思う。

やれやれ、涙腺が弱くてどんなつまらない映画でも必ずワンシーンはぐっと来てしまう僕が、まったくぴくりともしなかった恋愛映画も珍しいよ、と思って席を立とうとしたら、後ろの席の女がだだ泣きしていて、正直ぎょっとした。