ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

water garden。

夜中、暑く重い夜気に寝苦しさを感じて目を覚ます。再び眠ろうと寝返りをうっているうちに、まだ若干残っていた眠気のしっぽをつかみ損ねてしまった。
所在なく板橋物置部屋に悶々としているのも退屈なので、軽いシャツを羽織って外に出てみることにした。
ベッドサイドの、ターコイズ色をしたプラスティックの小物入れに無造作に放り込んであったポータブルラジオのスイッチを入れると、ソニー・ロリンズのサックスが気だるいインプロヴィゼイションを奏でている。左手にラジオをぶら下げて、重い鉄の扉を開けると、ごうっと風が渦巻いた。
都心方面を見ると、重い水蒸気のドームがネオンサインの光に照らされて帝都を覆っている。しかし僕の周りを吹きすぎてシャツを揺らす大気は、一時に比べてだいぶ爽やかになった気がする。相変わらず寝汗を大量にかくような湿気と温度ではあるのだけれど。
板橋物置部屋の周囲は深い森が広がっていて、時折寝ぼけた鳥が不機嫌そうな声を上げる。そのさまは熱帯の密林めいて、僕を無国籍な夢想に迷い込ませる。森を通して、はるか向こうにサーチライトに照らされたビル群が銀色に林立しているのも蜃気楼のよう。ラジオからは今度は、ハリー・コニック・ジュニアが甘いバラードを歌い出した。南国の果実の汁のような濃い空気が流れる。
摩天楼の周りに飛び回るヘリコプターが、サーチライトに掃かれて白く輝くのを見ていたら、自分だけの水槽を眺めている気分になって、額が涼しくなる。
ラジオから、地球の裏側で地下に閉じ込められた33人の坑夫が、地上からの救援物資を受け取ったニュースが流れだした。僕は安心して、ベッドに戻って眠った。