フラッパーズ。

Kはフラップバッグ・ファンである。鞄の片側に蓋が垂れる、あれである。デザインがプリミティブになるのがいいんだそうだ。「ジッパーが上に何条も走っているビジネスバッグなんてゴメンだ。品川駅じゃあるまいし」というのが、日本酒を４合ほど空けたKの、何故フラップバッグがいいのかの説明の締めくくりだった。
「新しいのが欲しいんだよね」
「なんでよ」
「今使ってるやつが尻を齧るから」
「何だと？」
K曰く、身体側にくる面にあるジッパーが、尻ポケットやらベルトループやらに食い込みまくってスーツを傷めるとのこと。
「TUMIのSLIM EXPANDABLE LAPTOP FLAP BRIEFってんだけどさ、元々ノートパソコン入れるなんて考えてない先代があった。こいつは現行モデルと同様のジッパー問題だけでなく、ベルトフックが蓋を齧るっていう欠点もあった。少し前にPC用のパッドで囲まれたポケットをつけたりして、ベルトフックの型を改良したので、欠点の解決を期待して買い換えたんだが、PCポケットが邪魔してものが全然入らない。しかもEXPANDABLEなのに、入り口のサイズが変わらないからEXPANDしてもあまり意味がないんだ」
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「手厳しいな」
「あたりまえだっつーの。まいんち使うんだぞ。しかも仕事で」
「バッグの使用用途が、メーカーが想定していたのと違うってことだろ」
「そうなんだろうな。必要なものはPCに全部入っていて、大量の資料も、時間つぶしの本も、カメラも、コンベックスも必要ない人向けだ、多分。しかも肩掛けベルトがついているのに肩にかけないから尻も齧られず、背広も傷まない。そうそう、肩掛けベルトについているパッドも最悪だぜ。古くなってくると、白いワイシャツに色移りしちゃって何枚か駄目にした。クリーニングや浸け置きや、できることはやってみたんだが、落ちないんだ」
「悪い点ばっかりだな」
「デザインはね、よかったんだ。堅牢でシンプルで、その割に小物入れのポケットも充実していて。値段だってそれなりにする。いうなればフラップバッグ界のベンツかな。しかし、使えないのなら意味がない」
「じゃあ、次はどれにするんだ」
「実はもう買ったんだ」
次は国産ものだ、というKは、吉田カバンのポーターに手を出したらしい。

「何でも突っ込めて、たっぷり入るし、今のところ背広やワイシャツを傷めるようなこともない。TUMIに比べるとポケットが少ないけれど、収納スペースの広さがそれを補っている。TUMIのより型くずれしやすそうだが、収納量が多いのの裏返しだから、文句は言わない」
「ものにこだわるのってお前の趣味なのな」
「趣味じゃねえ、仕事のツールだ」
お互い酔いがまわって、会話の成立がおぼつかない。