ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

木下先生講義緑

風薫る五月です。湿度があまり高くないですから、こういう時には思い切って外に遊びに行くのがよろしい。暗くてしめった教室の中にはリアルは有りません。先生さぼることをお勧めする。
これから扱う教材は「私をスキーに連れてって」っていう、20年前の映画です。何故今これを扱うのか?ということなんだけど、先生昨シーズンに2回もこれを観たのでした。スキー宿で。宿にDVDプレイヤー持ってくる奴がいてね、スキーに行くたんびに観るのよ。で、印象に残っちゃってねー。
まずは、ざっと映画のおさらいをしておきましょう。ホイチョイ・プロダクションズのメジャー映画制作第1弾で、バブル真っ盛りの1987年11月に封切られています。当時この映画の影響力というか、ほとんど破壊力なんだけど、はすごかったみたいです。スキーブームを一瞬にして作り出し、セリカの売り上げを押し上げ、無線機やらビールやらコンパクトカメラやらトレイン滑走やらがゲレンデに溢れたとか。映画が流行を作り出す、というのはいつの時代でもあったことですが、これだけ若者文化に物質的影響があった映画って他に有りますかね?加山雄三あたりはスター性がきわだっちゃってて、クルーザーとかオープンカーとか手に届かないものばかりだったような気がしますし、あとは高倉健の任侠ものですかね。ヤッパってドスのことですけど、流行った?そんなことは有りませんね。青い山脈のサイクリングとか、どうだったんでしょうね。ま、話を「私を〜」の影響力に戻しますが、先生お金有りませんから、あんな物欲で満たされた生活未だに出来てません。ひがみじゃないかって?別にひがんじゃいませんよ。四畳半だって住めば都なんだ。
今日取り上げるのは劇中効果的に使われている松任谷由実の歌声です(板書)。所謂ユーミンYumingとも表現するようですな。ニューミュージック界の女王です。この人荒井由実時代に出している曲がすごくクールで、今回教材をあさりながら先生感動してしまいました。「あの日にかえりたい」の前奏のスキャットとか、「中央フリーウェイ」のエレピの音とかね。


ちょっと寄り道がすぎました。今日の教材は映画中盤の山場、三上博史扮する主人公矢野君が大晦日原田知世扮する優ちゃんのところに「5時間かけて振られにいくんじゃ、バカだよな」といいつつカローラIIを飛ばしていく場面。バックには松任谷由実が1981年11月にリリースした「夕闇をひとり」のカップリング「A Happy New Year」が流れる。

いろいろつっこみどころがあって面白い映像だったりするのだが。たとえば、原田知世の髪型。今時こんなにもっさりした長髪いません。整髪料ではねや広がりがないように押さえてあげたい。でも口角の感じが可愛らしい。ちなみにお姉さんの原田貴和子さんは石原真理子倉科カナかってくらいりりしい眉毛で出演しているのだが、それがまたイイのです。あと布施博は20年前も今もあまり変わらないっていうのも発見です。あ、すみませんまた脱線です。
C# durのAメロとBメロだけの単調な曲なんだけど、計算されてますよ。まず入るのはピアノ。低音が2度と4度の繰り返しで、高音が若干つっこみ気味のバッキング。2度4度は緊張感のある音の組み合わせなんです。早く1度が混じるコードに持っていきたくてたまらなくなるんだけど、そうしないことで、張りつめた感覚が出ている。Aメロのベース音は2度(つまりD#)から1度(C#)→6度半(B)→6度(A#)と来て、やや着陸の兆しをみせつつ着陸しないというのを2回繰り返した後、Bメロに引き継がれます。Bメロでは4度→3度と、いよいよ着陸の方向に持っていったとみせて6度半→6度に逆戻り、最後に4度→5度と着陸させるぞ宣言をしながらイントロの刻みに戻す。なんてサディスティックな曲構成!これが一周目。カロIIが湯田中の橋をスキール音させながら曲がっていきます。
二廻り目はベースとギターが入り、多少の厚みを増しながらAメロ→Bメロと来て、ここでやっとベース音が1度に来て着陸。薄ーくストリングスが入ります。ここでの映像は車がスタックしているもので、テンションを曲から映像にシフトして持続させたってことなんでしょうか。
三周目は鳥越マリ原田知世の掛け合いが入り、単調さを紛らしてます。で、コーダに入るとストリングスが盛り上がるのよ。で映像は志賀の街を快走するカロII。わかってるなー。んもうこのあたりになると矢野君もカロIIも健気に見えちゃって、先生涙が止まりません。
こんな風にこのシーンは「A Happy New Year」のミュージックビデオ化してしまっているわけですが、松任谷由実って声のどこかに硬質なものを持っていて、それがとても冬にあうなーと。たとえば冬の早朝、オフィス街をこつこつ歩くとか、そういう頑なな健気な感じを声のキャラクターとして持っているのです。だから「春よ、来い」とか柔らかいイメージを出そうとしていた曲ではボーカルの音色(音色ですよ。もはや楽器!)結構いじっていた気がするんだけど、残念ながら検証資料は見つかりませんでした。若干中途半端目でしたけど、今日のポイントは「声にもキャラクターがある」ということでした。
次回、RoundTableキリンジを予習しておいてください。ああー本当は今日出勤するつもりだったんだけどもう駄目ですね。日直号令!