ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

中原中也全訳詩集を読んでいて

ランボオの「酔いどれ船」。第8節。
私は知つてゐる稲妻に裂かれる空を竜巻を/打返す浪を潮流を。私は夕べを知つてゐる、/群れ立つ鳩にのぼせたやうな曙光(あけぼの)を、/又人々が見たやうな気のするものを現に見た。
同じ第8節を福永武彦が訳すとこうなります。私的にはこちらの方がしびれます。
僕は知る/稲妻が二つに裂いた大空を/また竜巻を/逆潮を 潮道を/僕は知る/海に燃える夕映を/小鳩の群れがひと息に/飛び立つような暁を/そして/人が見た気でいたものを/僕はこの目でしかと見た
すごく長い詩(25節)の何故!この1節が気になるかというと、これはもうブレードランナーの名シーンを想起させるからです。ルトガー・ハウアー演じるレプリカント・ロイがハリソン・フォード演じるデッカードとの戦いの中、寿命が尽きるのを悟って最後にデッカードに語りかけるのでした。
I've seen things you people wouldn't believe. Attack ships on fire off the shoulder of Orion. I watched C-beams glitter in the dark near the Tannhauser gate. All those moments will be lost in time, like tears in rain. Time to die.
あなた方人間が信じられないようなものを、私は見てきた。オリオン座の向こう、炎に包まれる攻撃船団。タンホイザー・ゲート近く、暗闇にきらめくC光線。これらすべての瞬間は失われていく。時の流れの中に。雨に流される涙のように。もう死ぬ時間だ。

で、鳩がばたばたっと飛び立つ。似てると云ったらうがった見方がすぎますでしょうか。いずれにせよ、格好いいフレーズです。

ジョアン・フォンクベルタが奇書「スプートニク」で取り上げているのもこのくだり。ただし、「ソユーズ2号の事故で永遠に地球に帰還できなくなり、その後旧ソ連により存在自体を歴史上から抹殺されたイストチニコフ大佐の辞世」として。こちらではC光線ではなくD光線になっています。