ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

木下先生講義録

はい皆さんこんにちは。寒いですけど、皆さんのことですからお元気でお過ごしでしょう。春はもうすぐそこです。三学期もそろそろ終わりが見えてきて、皆さんテストとかで大変かも知れませんが、頑張ってください。先に言っときますけど、この講義はテストありませんから。その代わり皆さんの最近ハマっている音楽について、レポート出してもらいます。えぇぇぇ、じゃない。それくらいしなさいよ学生なんだから。出した人には単位あげます。えーと、それから佐東君!受験が終わったからって暇つぶしに受講しないこと。このコマは2年生用です。国公立はこれから前期試験なんだから、神経逆なでするような真似をしない。免許でも取りに行ってらっしゃい。

…まったく、なんであんな奴が早稲田推薦なんだ?

さて、今日のタイトルは「ダメ。ゼッタイ。」です。(ダメ。ゼッタイ。と板書、振り向いて)5日に岡村靖幸覚せい剤取締法違反で捕まってしまいました。(室内大爆笑)いやいや、笑い事じゃないですよ。ほら、静まって。静かにしなさい。しーずーかーに!

今日は楽曲分析は無しです。先生の思い出を話そうと思います。

先生は1988年、相模大野の駅前のビルに住んでいました。小さな事務室に事務机とベッドとロッカーを詰め込んだ環境で、テレビもなく、入ってくる情報のほとんどがラジオ経由でした。時折しもオリンピックイヤーで、世間はソウル五輪に湧いていたと思います。世の中はバブル絶頂期で、やたらと肩のパットの厚いスーツを着て歩いているOLのお姉さんが多かった記憶が有ります。そんな中、先生はひたすらラジオを聴いて過ごしました。天皇崩御もラジオで知りました。J-WAVEの試験放送が8月1日に始まって、10月に本放送になった瞬間も聴いてました。FMヨコハマのカレッジチャートでトップを取ったPIZZICATO FIVEの「誘惑について」は'88の先生のテーマソングみたいになりました。フィリップ・クーテフ合唱団の「トドラは眠っている」が耳から離れなかったし、サザンが3年ぶりに「みんなのうた」で帰ってきたのもこの年。そんな、ラジオから聞こえてくるもののなかに岡村靖幸の「だいすき」も入っていたんです。チャイルドコーラスで始まる脳天気な歌で、耳に残るんですよね。11月8日リリースということですから、10月にはパワープレイされてたんじゃないでしょうか。

その後、先生訳あって日本の逆側に移住しました。そこで知り合った友達が面白い男で、体系的に音楽を習得するとかいってシリーズもののCDを大量に買いあさっていたんです。ジャズスタンダード集とか、モーツァルトのボックスとか。たまにその男の部屋に行って音楽聴いたりしてたんですが、大量のCDの中に岡村靖幸の「家庭教師」が混じっておりました。このアルバムには「カルアミルク」なんていういい曲も入っているんだけど、とにかくしびれたのが「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」っていう曲。高校生のとき過ごした時間ってこんな感じだよ!と舌を巻いてしまいました。青春の瞬間を切り取るその手腕。そのとき先生は思ったのです。「この人、ずっと若い人の味方でいて欲しいな」と。若い時代の、不安で、何かできるかもしれないし、何もできないかもしれない、そんな感覚を楽曲の形にエンコードできる大人がいたら、どんなに若い人は心強いだろう。まあ、ナルシストで不安定で耽美的でいたずら好きっていう感じの変な人なんだけど、先生この名曲があったことに感謝しているので、大抵のことは許すのです。

映像は2003年の夏のものですが、実はこのとき既に岡村さんは覚せい剤で1回捕まって、執行猶予付き判決が下されていたのでした。太ったせいか、昔は自在に扱っていたファルセットが出せなくなってしまっています。もう一つ致命的なのは、2コーラス目のBメロの歌詞をまるまる間違えていること。「寂しくて悲しくてつらいことばかりならば 諦めてかまわない 大事なことはそんなんじゃない」っていうんですホントは。この曲のキーポイントの歌詞なのに、それをまるまる1コーラス目と同じに歌っちゃっているんです。機会があったら是非昔の岡村さんの歌う「あの娘〜」を聴いてください。1990年10月10日体育の日にリリースされています。(ざわめく室内)ん、何?(「先生それ、私たちの生まれた年です」)えええー?そっか、君ら17歳か。であれば是非、聴いてくださいね。共感する部分が、きっとあると思います。
岡村さんは、この間のを入れると通算3回薬物乱用で逮捕されています。今後どんな風に過ごしていくのか、また再びみんなの前に姿を現すのか、それとももう二度と会うことは出来ないのか、わかりません。ただ先生は「あの娘〜」を聴くと、今はちょっと悲しい気分になります。
説教臭い話は好きじゃないのであれだけど、「ダメ。ゼッタイ。」ですよ。いやホントに。じゃ、こんなところで今日はおしまいです。日直号令!
2011年10月1日追記:
岡村靖幸が復帰したみたいです。今度こそ、という祈りは儚いのでしょうか。薬物依存の根深さを知っているだけに、先生今回も懐疑的にならざるを得ない。それでも応援してしまうのです。上述の「あの娘〜」のリリース直後のライブ音源、'91年のフレッシュな岡村ちゃんを貼っておきます。
それでも、今度こそは。