ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

DragonYearがやってくる!

話はさかのぼって昨年11月、大久保の駅前の串焼き屋でピーマン肉詰めと椎茸肉詰めを肴にビールを飲んでいたときのこと。一緒に飲んでいるナガトシは大学の同級生であり一緒に留年し、警備会社で一緒に夜勤などしていた男である。最近太くなってきた胴回りを気にしながら、ナガトシはつまらなさそうに煙草をくゆらしていた。
「満ち足りているとは、どんなことだ」
突然、ナガトシが言うのである。
「金を稼ぎ、妻と一人の子供を養い、すり減ったり凹んだりしながら小さくなっていく自分の世界を慈しむことが、俺たちの目指していた豊かな世界なのか」
ナガトシは潰すように煙草を消すと、ぐびり、とビールを飲むのである。
「我々に残された道は未来へしか続いていない。諦観と老いが織りなすレース編みの帳に、我々は柔らかく身を投げ出すしかないのだ」
ぐびり。
「しかしその時の流れの中で今一度野生を取り戻し、満ち足りた時間を要求する権利が、我々にはあるはずだ。いざ集え、我らが自由と独立の旗の下に!」
店内からぱらぱらと拍手。ナガトシはにやりと笑う。
「…っていう動機で、旅行とかに出発したらかっこよくね?」
「鬱陶しいねどうも」ぎんなんの渋皮をむきながら、僕は混ぜ返す。
「あーあ、何か馬鹿馬鹿しい事を真面目にしたいなぁ」
つまりその日、ナガトシは倦んでいた。
「第七餃子、喰いてえな。餃子パーティしようぜ」
第七餃子とは古都金澤のジャンクフードの雄である。学生時代を金澤で過ごした人間で口にしなかったものはいないという驚異の普及率を誇る、中毒性のある薬物で、四年間毎日食べ続けた男が廃人になったとか命を落としたとかいうまことしやかな噂が流れていたりする。ホワイト餃子中サイズ、ライス中盛り、豚汁付きを「中中豚汁」と注文するのがマナーになっている。通販もやっていて、ガリガリに凍らせた餃子を宅配にしてくれる。
「良いねぇ。スキーと絡めてスキー旅行にしないかい?」
と、僕が言ったか言わないかの間にナガトシは電話を始める。そんな風にしてDragonYear's*1 SKI企画が始まったのである。

さて、そんなわけで先週末、五竜に集まった連中は5人。凍ったホワイト餃子を30個抱えて持ってきたナガトシ(通信会社勤務)、嫁に「何やってんの?」といぶかしがられながらフライパンとカセットコンロ、サラダオイル一本を持ってきた川村(某役所の某役人)、笹かまぼこを持ってきた海ちゃん(ブン屋)、壺(所長)、木下(情報屋)で、昼間はみっちりスキーをし、夜は餃子をたのしく食べました。油を大量に使う調理法なので、火災報知器を働かせないよう風呂の中に籠もって餃子を揚げる姿がシュールでしたけど。
そして不肖木下、今シーズンの滑走日数は13日になりました。

*1:留年→竜年というオチ。