ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

風の唄を聴け。

自転車通勤の帰りのこと。
騒がしい職場を離れて、荒川の河川敷に入る。夜、街灯のないこの自転車道は、たまにジョガーと、それからサイクリスト達が無言で行き来する、一種独特な雰囲気に包まれる。
考えてみると都内の移動で車の音やら人工的な光に直接晒されたりせずに、1時間聞こえてくるのは耳をかすめる風の音だけ、見えるのは航空灯のように点滅する自転車の尾灯だけ、というのは他にないのではないか。高校の時の通学路は田んぼの真ん中で、街灯などもなく夜目をきかせながら走ったものだけど、その感覚に似ている。
河面を渡ってくる風は湿って重く、梅雨らしいよどんだ空気だ。騒音とか人工光とか、心の外側にあって五月蠅い要因が少ない分、感覚が研ぎ澄まされて、空気の香りや重さ、風の音や川面に映る光がいつも以上に鮮烈に感じられる。