ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

楽しい習い事。

お茶に興味があるという話をしたらマカオさんが「じゃ、せっかくだからお茶の先生をご紹介しましょう」とさくさくと段取りをし、「言っときますけど木下さん、私が紹介するお茶の先生は半端じゃなくいいですよ」と意味深なことを言って、なっはっは、と笑った。何が半端じゃなくいいのか判らないまま、草加で待ち合わせをする文化の日の夕方である。
そそうのないようにね、と言われたとおりにとりあえず普段の実用優先な服装を改め、初対面のお茶の先生に失礼でない程度の格好をして待つ。大家がお茶の先生をしていることもあって、ひととおりの作法は教えて貰ったりしているのだけど、ありゃ抹茶だし、お煎茶の先生って初めてだ。どんな格式のある先生か判らないけれど、ご飯を食べながらお茶の話をするほど造詣が深いわけではなし、判らないことを訊けばいいか、と思って半ば破れかぶれの気分になって待つ。
時間ぴったりに改札の前で所在なくしていると、後ろから声がかかる。「木下さん?」
「はい」と振り向くと、そこには女の子が立っていた。
「やっぱり。ホームベース顔の、無駄に肩幅の広い175センチ」と言ってちょっと首をかしげて笑う。マカオさん、どういう紹介しているんだ。それにしてもお茶の先生という感じの女性ではない。くるんとした黒髪の、眉毛がしっかりしていて、顔の丸い仲間由紀恵みたいな外見。はっきり言って可愛い女子である。頭の中でマカオさんが笑う。なっはっは、なっはっはっはっは!
「すみません、なんか突然のお話に付き合っていただいちゃって」
「いいえ、私もお友達がお茶なんて興味ない子ばかりなので、嬉しいですよ」
モモヨ先生と名乗ったその女の子を連れて、近くのイタリアンに行く。18時過ぎの休日、急に探したお店は本当に判りづらい場所にあったのだけれど、店員さんがフレンドリーで和やかなお店でした。コースをお願いしながらお話をする。
作法はお抹茶とは全然違って、おちょこやぐい飲み程度のボリュームの器を茶托と一緒に扱うのだ、という煎茶道のお話は放っておいて、モモヨ先生はお父さんの自動車をぼこぼこにした話をし、自動車の運転がいかに下手か、とか、考え事をしていると赤信号を通り過ぎてしまう話とか。僕はモップ洗い場で自転車通勤の汗を拭かないといけない職場の話とか、これからスキーシーズンで東京にいなくなってしまう話とか。結局、22時半までお話ししまくり、最後に慌てて、お茶会のお話。懐紙をどういう風に使うかを神妙に習い、そこだけはお茶の講習でした。お茶券をただで戴いたので、食事は僕がごちそうすることになった。モモヨ先生には先に外に出て貰っていたら、ご主人が「随分お話が盛り上がっていらっしゃいましたね。可愛らしいお友達でいらっしゃる」と仰る。ここまでまったくドライで過ごしたので、ごめんなさい客単価が低くて。
久々に毛穴の開くお食事でした。可愛らしい女性とご飯をする時の幸福感というのは特有で、これを感じられるのは男性ならではの特権なんだと思う。気恥ずかしく誇らしくて緊張して楽しい。
っていう話を北山にしたら「そりゃ自慢ですか。あおいわねー木下も。蒙古斑残ってんじゃないの?」とからかわれる。
「なんとでもいい給え。男の人はこういうのを糧にして日々の倦怠を凌いでいるのだ」
「木下もあたしの毛穴が開くくらいの美男子でも紹介してご覧なさいよ、馬鹿ねえ」
そんなわけで11月後半は本当にイベントフルになってしまった。龍勢ヒルクライムが来週末。再来週は皇居で駅伝と古河でお茶会。その次はスノーシーズン開幕。