ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

霧笛が僕らを孤独にするのだ。

やたらと気力をそぐ仕事が続いた月曜日、21時まで残業した挙げ句、たいした成果も出せないまま撤退を決めた。
サイクルスーツに身を包んで外に出る。事務所前の自動車整備工場はこの春から操業を停止している。錆なす大きな鉄扉の前で、軽くストレッチする。湿った夜気が毛布のように街を覆っている。街灯が写す影を脅かさないかのようにひっそりとした足取りの猫どもが列をなして歩くのを横目で見ながら、うらぶれた工場町を河川敷に向かってこぎ出す。
トップチューブにつるしたトランジスタラジオが原発事故関連のニュースを流しているのを聞くともなく、土手から一気にサイクリングロードに下り降りる。街の明かりが届かない土手の内側では、ミルク色の大気が発光しているよう。オイルアップした青猫はきしみもたてずに、しなやかにペダリングに答える。やがて巡航速度を確保すると、何も考えずにぼーっとクルージングするモードに入る。速度はおよそ25km/h、快適な夜間飛行である。心拍が低すぎるというアラートが出ているが、これ以上追い込んで走る気もおきず、両手をグリップから離して腰の後ろに組んだまま、滑るように夜を流れていく。
水門が近くなると、川向こうに高層マンションが立ち並ぶ夜景が見えてくる。懐かしのAfer DarkのStarry Night*1のよう。

身体に染み渡った毒が少しずつ空気に洗われていく。とりあえず今日は、終わったんだ。深呼吸ひとつ。

*1:System7時代のMacのスクリーンセイバー。高層ビルの夜景が明滅する、シンプルで綺麗な絵でした。論文の締め切りが迫ると、同じくAfter Darkの中に入っているLunatic Fringeっていうスクリーン・セイバーのゲームのハイスコアがうなぎ登りに上がっていった。みんな勉強しろよ!