ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

素晴らしい世界。

夕立が降る、と言われながらもここ数日直撃を避けて行動できていたので、何とかなるだろうとタカをくくっていた昨夕。早めに事務所を出るとブロンズ色の風が木立をなぶっている。
こりゃ、早く帰らないとひと雨来るな、とケイデンス高めで走り始める。赤茶けた工場街は人影も見えず、伸び放題の雑草がいろんな方向に向かってお辞儀を繰り返している。「あ西、あ東、あ西、あ東…」
街灯が風にゆいんゆいん揺れている。
なるべく姿勢を低くして、青猫にしがみつくようにゴーストタウンみたいな街を走り抜ける。そのとき、耳元をひゅん、と何かがかすめた。周りのトタンもてんでに音をたてはじめる。
っぱん、っぷ、てん、てんてん、んとっ、きんっ、ひゅん、だん!だんっだん、んだだん。ぱん。
まるで市街戦。大粒の銀弾が、無差別にバラバラと、僕と周りの工場に降り注いだ。青猫のフレームに当たって、きんきんと音をたてるくらいの重たい雨である。
河川敷に入る頃にはすっかりびしょ濡れになった。飛沫で煙る路面からは埃の匂いがたっている。
実は、夏の夕立に濡れるのって嫌いじゃない。質量感があって、微かなぬくみが感じられて。圧倒的な自然の力に笑いたくなる。
放射性物質が気になるけれど、こうなるともうどうしようもない。
がんがん降りつける水滴のなか、フルスピードで板橋大家部屋まで帰った。おかげで靴といわずバックパックといわず、砂まみれのどろぐちゃになって、大家に顔をしかめられた。