ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

スノウ・パラダイス。

滑走日数11日目@尾瀬岩鞍。
節電と、昨年の台風で一部崩落箇所があることから尾瀬開発株式会社は西山*1の閉鎖を選んだ。結果、例年ぶなのきに張り付いていた連中は他コースに散った。あるものはエキスパートコースに行き、またあるものは国体男子コースに向かった。何れもピステンの入らないもさもさの不整地である。そうかと思えばハードパックされたバーンに活路を探しにいったものもいたみたいである。
しかしモーグルバーンも開設されていない年明け、彼ら不整地派の脳裏をかすめるコブへの欲求不満を解消しようとすると、向かう先はひとつしかなかった。
リーゼン・コースである。
全長750メートル、最大斜度27度。コブ斜面ではあるのだが、斜度もそこそこにあり、下から見上げるそれは絶壁のごとくそびえ、整ったラインは望むべくもない。そんな中、僥倖的に出来た比較的長い2、3本にコブライダーが群がり、挑戦しては弾かれて、エスケープしたライン脇でギャラリーになる。そんな、岩鞍の中では文句なしにチャレンジングなコースなんである。
風も治まった昼下がり、頂上からコースを検分する。折から降っている雪は湿った重たいもので、板が過剰に走ることはないだろう。ピッチはまあまあ長くて、せわしなく踏み換えなくてもよさそう。もとより、縦滑りしてスピードを見せつけるような技量は、まだ*2ない。
軽くジャンプして、ポジションを確認する。ゴーグルをはめ、ヘルメットのストラップを締める。眼下に広がった白いうねうねの中に見える、一本のラインに向かって、テールを左に大きく振り出した。
ダイブ。
瞬間の無重力感は、何ものにも代え難い。板が跳ね上げた雪の塊を右の視界縁に感じながら、切り返したテールで右のコブ裏を削る。膝を曲げてショックを吸収させながらエッジを緩め、トップが出口を目指して回るのに任せる。
ブーツのタンが受けたびりびりするような重みを推進するベクトルに変えて、次の無重力の瞬間を待つ。
ふわり。
麓のレストハウスは多分、そろそろ空き始めているだろうな。ほら次の切り返しだ。エッジが削る感触。周りを浮遊する雪塊。
暴れだしそうな板をなだめすかして、ロデオのように板の真ん中に乗り続ける。麓がだんだん迫ってくる。
小曽根真のflightが、静かに頭の中で流れ始める。おいおい、そういう選曲?でも冷たい、軽やかな4/4拍子は速めのターンが連続するこのシチュエーションに合っている。

そのうち息が上がってきて、たまらず休憩。ぜいぜいと酸素を貪りながら、下ってきた斜面を見上げる。ゴーグルを外し、汗を拭う。まあまあ、だろうか。次はもっと滑らかに下ろう。ワンモアトライ。
そろそろ13時、この雪の楽園はまだ昼休みには早いのです。

*1:尾瀬岩鞍でも標高が高く、雪質が別物のエリア。ぶなのきコースは比較的攻めやすい斜度の不整地で、愛好家の中には常駐している人もいるほど。

*2:あえて、まだ、って言っておきます。コブの滑り方には3種類あって、コブみぞの外側を滑るバンクターンと、内側を滑るスライドターン、コブの肩を次々に乗り越えていく縦滑りなんだけど、縦滑りは今練習中。