ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

熱帯夜。

深夜1時の立体駐車場。通路の両脇にはアヌビスの彫像のように整然とうずくまる車達。神々の眠りを妨げないように足を忍ばせて歩いた。
レガシィのエンジンを始動し、アクセルを緩く踏み込む。セカンドでエプロンから滑り出て、中山道に合流すると、スカイラインを掃くサーチライトの光が見え、やがて夜の街が優しく輝きだすのだった。
帝都中心部を覆う水蒸気の円蓋は、ビル街特有の上昇気流に吹き上げられた紙や青く光る放射性廃棄物が舞い落ちるスノウドームである。半透明の膜の天辺近く、黄色っぽく輝きながら輪舞するのはオトメズグロインコの群れで、少しゆったりと飛んでいるのはグミョウだ。群れの間を縫うように、哨戒ヘリコが銀の薄い円盤を煌めかせる。
ときたま、それらを見上げながら、パレス脇を通って国会議事堂前を通り過ぎ、神田の大聖堂へ向かう。
今日は夏送りの日だ。
入口でロウソクをもらい、火を灯して列に加わる。ヴェールを目深にかけた人々が、皆静かに、囁くように挨拶を交わしあっている。ほどなくして、どこからか聖歌隊が歌い始めた。
リベラメ リベラメ リベラメドミネ
列には高齢者が目立つ。深い皺を刻んだ老婆が、祭壇にロウソクを捧げて祈る。僕も亡くなってしまった人、もう逢うことのかなわない人を思って祈った。
リベラメ リベラメ リベラメドミネ
二、三の知り合いと目礼し、早々に退出する。建物の外に出ると、温い空気が周りを満たした。
まだ寝苦しい夜が続きそうだ。どこかから弾丸のように飛んできたコンゴウインコが、笑うような叫び声をあげて闇の中に消えた。