ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

木下先生の部屋

「先生、何聞いているのですか。クラシックなんて珍しい」
「ああ中目黒君、久しぶりじゃないか。今日はどうしたんですか休みなのに」
「先生こそ何しに来ているんですか。マルクビさんがテスターもって猫足をばらしてましたけど」
「バッテリーがあがるのでチェックしてもらっているんだ」
「元々電装がちょっと難ありのバイクですからね。っていうか、学校をプライベートガレージみたいに使わないで下さい。明日、職員会議で怒られますよ。教頭は絵に描いたみたいなブルーマンデーの人ですからね」
「大丈夫、ばれないよ。君みたいにマルクビさんのところに頻繁に顔を出す輩はほかに僕くらいだ」
「そうですね。学校の中で一番面白いのに、マルクビさんのところ」
「そもそも用務員室なんて舞台裏さ。学校の機能の本質は美しい徒弟関係だ、なんていうのはオールドファッションな考え方でね。今やもっとぴかぴかのサービスを用意してあげないと顧客である生徒と父兄に見放されるんだ。そういうシステムにあって用務員室っていうのはつまり、モーロックの巣窟みたいなものかも知れないね」
「どーしたんですか。いつもの先生らしくなく毒を吐いてますけど」
「大体最近の社会ってあれだぜ、緩衝部分を無駄だって切り捨てることが多いよね。構造に遊びのない機械は脆弱だ。だからスピッツみたいにぷるぷる震えながらキャンキャン吠えるみたいな議論しかできない奴ばっかりになる。そういうのは僕は大っきらいなんだ。豊穣や繊細、真の力強さみたいなものとはおよそかけ離れている」
「でも、豊穣や繊細を教えるところが学校なんじゃないですか」
「いいや、違うね。学校はきっかけをつかませるだけで、後は生徒が自分でつかみ取るしかないんだ。それに今の時代ホージョーやセンサイなんてものを唱える先生は気違い扱いさ。もっと実用的でサバイバビリティを上げる諸々を教えてあげないと、それこそ生徒たちはエロイみたいな目を見るぜ」
「そうなのかなぁ…」
「シニカルな、一面的で一方的な物事の見方をすると、だ。学校なんて、理不尽なルールの押しつけで成り立っているんだ。何故、みんなそろいの制服を着なくちゃいけないのか。何故、決まった時間に決まったことをしなくちゃいけないのか。何故、昼食時にマルカワ食堂で300円の肉丼を食べちゃいけないのか。何故、ゲームセンターパルコで放課後×××な××をしちゃいけないのか。それはそう学校が決めたからだ。あるいは青少年保護育成条例で自治体が決めたからだ。世の中は理不尽でつまらないことだらけで、それに沿って生活することを学校はいろんなルールで教えている。それが出来ない奴はオーディナリーな飯の食い方はできんよ」
「つまりこういうことですね。サバイバビリティを上げるみたいな教育が必要だけど、先生はそういうのが嫌いで、もっと豊かなものを教えたい。本当はそういうのこそが大事で、だけどそれは日の目を見ないモーロック人みたいな追いやられ方をしていて、えーとそれはアングラ扱いされるみたいなことになっちゃってると」
「いやいや、モーロックは言い過ぎたけれど…」
「黙っちゃいましたね先生」
「ま、いいや。今日は雲の流れが速い。He said, there's a storm coming in」
I know. ターミネーターのエンディングでしたっけ」
「渋いところ拾うね中目黒君」