ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

さあ、出発だ。

音吉達との旅は続いている(→2009/10/21)。フォート・バンクーバーからイーグル号に乗り、サンドウィッチ島に寄港し、灼熱の赤道直下を抜けてホーン岬へ。べた凪や、索具すべてが凍り付くような極寒を経験しながらロンドンに向かう。イーグル号は軍艦で、当時の水夫は荒くれ者ばかりだったから不穏な空気が常につきまとう。
ロンドンでは手篤くもてなされ、僕らはマカオに向かうことになる。出発当日、船舷から見送りの風景を見ている。今度は客船で、女性客も乗っているので船内の雰囲気は柔らかい。しかし今までの過酷な航海の記憶から、嵐に遭わないだろうか、本当に日本に帰れるのだろうかと、僕らは気をもんでいる。離岸直前になって向こうから男達がかけてくる。イーグル号で仲のよかったサムと親父と、あと名前の判らない刺青の男。われ鐘のような大声で「無事を祈るぜ!」「俺達もそのうち日本に行くぜ!」と口々に叫びながら、土産物を投げてよこす。ゆっくりと動き出す船。僕らも手を振る。音吉と久吉が日本語で叫ぶ。「さようなら!」
「海嶺」全3巻の中巻の終わりである。もうね、泣いた。別れの風景に弱いんである。
母をたずねて三千里」の最終回を思い出す。母さんと一緒に帰国の途に就くマルコに向かって、港で「よかったな!」と声をかけるおじさん。旅の先々で今まで出会った人たちが祝福してくれる、グランドフィナーレ。ご都合主義だが、あれを見た子供はみんなハッピー・エンディングに酔いしれた。あれは日曜日の夕方、ハウス子供劇場っていう枠の視聴者を意識した制作者側の愛だと思う。お父さんも、お母さんも、子供も、みんなそろって日曜日にご飯を食べるのが当たり前だった、幸せな時代の記憶。