ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

中目黒君の逡巡。

中目黒君が最近またおかしな事になっている。別れた彼女と頻繁にあっているらしい。朝っぱら、これから仕事が始まるっていう時間に僕の部屋に来て面倒な相談をする中目黒君は、例によって憔悴している。
「こういうの、どこに出口があるんでしょう」
中目黒君は僕が上げたヴァイタミンのサプリメントをボリボリ囓りながら言う。ルアック・コーヒーはもう切れてしまい、MJBの緑缶を職員室からくすねてきて、僕らは飲んでいる。窓の外はすっかり冬の気温で、コーヒーの暖かみが二人の周りだけほっこりした空間を作り出している。閉じた、繭のような空間。
「僕だったらもう、会わないけどな」
「そう仰ると思ってましたよ、木下先生」
「でもね」
僕はコーヒーを置いて、眉間をもむ。
「もうさ、中目黒君の中では選択しちゃってるんだろ?苦しいのに向き合っていくって」
「そうですね」
「じゃあ、やるところまでやってご覧な。それで大けがするしかないでしょう。もしかしたら、とは、僕は言わない」
「それが木下先生の出口ですか」
「そう。どう納得するかが問題なんであって、安全であることとか、平穏であることっていうのはすでに君の目的ではないんだろ?」
「辛辣、ですね先生」
「そうじゃない。状況と条件を平たく見てみると、そうなんじゃないかって言ってるんだ。あとは中目黒君、どうする?って話さ」
「…そうですね。とりあえず仕事に響かない程度に悪路に踏み込んでみますよ」
中目黒君は案外さばさばした顔でそう言った。
「もうひとつ」
「なんですか」
「実は、僕はそういう選択って嫌いじゃないんだ。行けるところまで行ってみな」
「木下先生、野次馬入ってるでしょう」
「とんでもない、僕は大まじめだ。人生は楽しむものだぜ。守りに入って黄昏の生活を送るなんて、どんなに歳をとっても僕はごめんだ」
「…久々、暑っ苦しいですね」
「君が上手くいったら、マルクビさんからシュラスコを奢って貰うことになってるんだ中目黒君。頑張ってね」