ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

東京遊泳

天皇誕生日のこと。
三田線から新宿線に乗り換え、小川町で降りる。コンコースは年末の買い物客でせわしない。B5出口でと待ち合わせる。
スポーツ用品店のメッカである神保町でも、小川町界隈はスノー関連の店が固まって立地しているので、B5出口は馴染みのスポットである。僕と付き合いのある人間は、僕自身含め時間通りに動くことが比較的珍しいので、時間潰しに常備している、ヒップポケットにねじ込んである文庫本を引っ張り出して頁をめくるのである。外気は冷えていて、コートにくるまれて読む堀江敏幸「いつか王子駅で」はゆるく切なく染み込んでくる。スーホの白い馬からテンポイントの逸話に繋がるあたりが白眉で、思わずのめり込む。
ヘッドフォンからは豊かなベースとゆったりしたリズムライン、リラックスしたサックスのコンビネーションが溢れ出す。
「今年はやる気です!」という渚はボード用品一式を買う気とのこと。前回の雪遊びの時、恐る恐る滑っては尻餅をつくのを見て大笑いする僕を、恨めしそうに睨んでいた渚は、半ば意地になって今シーズン少しでも上達しようと考えているらしい。