ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

キノシタミライノミライ

「最近書いてるの先生?」
おでん屋「あぶらつぼ」は相変わらず空いていて、小函さんは眉根に皺しておっかなびっくり大福帳をのぞいている。やっぱり相田翔子似だよな〜、それとも沢尻エリカのほうが似ているだろうか?などと埒もないことを客がカウンターのこちら側でひそひそと話題にしているのを知ってか知らずか、今日の小函さんはいつもより相田翔子っぽい明るいアカガネ色の着物の上に、やはりいつもの白い割烹着を着て、ああ頭がいたくなっちゃう、ツルカメツルカメ、なんてあまり余所行きらしからぬ呟きをしている。それも宜なるかなと思うほど、カウンターのこちら側は少数精鋭の常連で固められている。
そんな小函さんを後目に、スナギモは屈託ない笑顔で僕の横に座り、インゲンの筋取りをしている。ステンのボールに照明か映えて眩しい。
「書いてないね。今は雪遊びに忙しいんだ」
「ふーん、帝建も案外暇なんだね」
「そうじゃないさ。帝建の方も忙しくて休みを返上してる」
「じゃあれだ。あの箪笥臭いっていう女の子とスキーに行くのに無理して時間を割いてるってこと?」
「…当たらすとも遠からず、と言っておこう」
「まっ、やらしー先生。柄にもなく車なんて買っちゃって、おかしいと思ったんだよな〜」
「やらしくありません。スナギモだって、男の人と外出くらいするでしょうが」
「だって、その女の子、お付き合いしてる男の人が先生とは別にいるんでしょ?」
「おいおい、スキーに行くのがいつからそんな大ごとになったのだい」
「何回行ったの?」
「4回」
「多い!」
「そうかね。こんなオッサンと雪遊びするのがそんなに危険だとは」
「スナギモ、手がお留守になってますよ」
カウンターで仕込みをしては駄目でしょう、先生だってご迷惑よ、と小函さんは珍しく小言を続けた。はーい、とスナギモがぱたぱたと片付けて僕はカウンターに取り残される。
忙しそうに立ち働く小函さんの後ろ姿を見ながら、何故かぼんやりとかすむ将来について考えながら熱燗を嘗めていた。