ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

そのとき、風が。

冬型の気圧配置のせいか、最近向かい風に抗って走ることが増えた通勤路である。
自転車を走らせようとすれば、様々な負荷に耐えなければならないが、空気抵抗もそのひとつ。スピードを上げればあげるほど粘っこく絡まりつく流体と対峙することになる。 水ほど圧倒的ではなく、さりとて無視できるほど軽くもない。これとうまくつき合えないと自転車はつまらなくなる。一番いいのは、ウェイトを減らし、筋力を増し、心肺機能を向上させることだ。なかなか達成が難しいけれど。
風が見えるときがある。液体的な抵抗がふっと軽減され、風向きが変わったと同時にシャツのはためきが止まる。木の葉が僕と並行して飛ぶ。葉脈まではっきり見える。層流に乗ったのだ。僕もなるべく空気を乱さないように挙動を止める。並走する電車から、留置線へ向かうがらんとした回送電車の車内を見るときと似た感覚。しかしたちまち乱流が発生して、親密だったはずの僕らの関係も終わりを告げ、木の葉はどこかへ飛んでいってしまう。強風に立ち向かう女の子のコートのすそみたいに翻りながら。