ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

コントロールを取り戻す。

通勤路に自転車の人が増えた。
木曜日の朝、そんなカリカリの格好しなくても…ってくらい気合の入った、おそらく自転車には乗りなれているであろう御仁が岩淵水門のゲートで僕を追い抜いていったので、こりゃいいや、とスリップに入った。折からの冬型で吹き降ろす北風に煽られながら40km/hrに限りなく近い30km/hr台で巡航。首都高中央環状線をくぐるくらいまで引っ張ってもらう。そこからは単独で職場まで。
土曜日、車検上がりのレガシィを回収してから、荒川CRを河口まで往復してみる。サイコンが心拍オーバーの警告を出すのを無視してこぎ倒す。なるべく滑らかに、身体が流線型のフォームになるように気をつけながら。無骨な青猫は曇りひとつなく磨き上げられ、チェーンは丁寧にクリーニングされ、オイルアップされてあり、ペダルを踏みおろすとエアをかんかんに入れたタイヤがアスファルトを噛み、クロモリのフレームが適度にしなりながらぶんぶんと進みだした。
あまりに調子が良かったので風向きを警戒する。往路の追い風は復路の向かい風となってスタミナを奪うからだ。しかしそれは杞憂で、実のところほとんど風は吹いていなかった。60kmを走りきったあとに8ヶ月前の記録と比較してみたら、1.5倍のペースアップだった。心拍も高くなっているが、上限まではまだ10bpm程度ある。青猫とは別に、純粋に競技用の戦闘力の高いバイクがあってもいいかもしれない。Intermaxのフルカーボンの30万円くらいのやつとか。それで龍勢のリベンジをしたい。それだけでなくいろんなヒルクライムに出てみたい。それからCS400のデータ飛びがひどいので、CS500が欲しくなる。
ハムストリングスが強くなった感触が出始めてからこちら、ペダルが面白いくらいに回るようになった。以前と比べて勝手に進むような感覚。追い風に乗ったような、ゆるい坂を下るような。心肺が筋肉の運動についてけず、毎朝息を切らせてハアハアゼイゼイしているのだが、それだけ体内でエネルギーが燃えているということなので、あまり苦ではない。ふいごで炉に酸素を送り込むようなものだ。どんどん燃えて、新しい身体になっていけばいい。古い細胞は燃えて新しい細胞に変われば好いし、過去の不摂生で恒等的に身体が負ったダメージをだんだん矯正していければ素敵だ。今日の自分は、そんなわけで昨日の自分とは明らかに違う。コンマ何パーセントかは別のコンディションで新しくなっている。自分の存在が不変だなんて思えない。実感として。
モーグルでも似た感覚がある。体重の板への乗せ方なんだけど、今滑っている位置より斜面のちょっと先を滑る自分の幻像に追いついていくようなイメージで身体を持っていくと、結果として板に遅れることなく重心を移動させることができる。立ち止まって整理するなんて悠長な考えは、足元や身体の変化に自分がついていけずに破綻することに繋がる。
僕らは燃料タンクに穴の開いたジャンボジェットで、マッハ3のサーフィンをしているみたいなものだ。後戻りはできない。常に最善の選択をしなければ、高度はどんどん落ちる。落ちた高度を嘆いている暇があったら、あるいは高度計から目をそらして訳知り顔で諦観を説くくらいなら、その瞬間から最善の選択をするほうがいい。
っていうのをわりと真面目に考えている今日この頃なのです。これは圧倒的な量で運動しているせいだと思う。その量が妙な説得力をもって思考に指向性を与えているのだ。一生のうち一定期間、こういうすごし方をする時期があってもいい。しばらく続けるつもり。