ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

神様は、優しくしてくれる。

アメリカ人が、少女の頭越しにしばらく川面を見つめていた。「泳げるかな?」
「泳ぎは得意です」答えるクリスチーナの声に、疑いようもない自信が響いた。「学校では選手でした」

脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち (ヴィレッジブックス)

脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち (ヴィレッジブックス)

  • 作者: スラヴォミールラウイッツ,Slavomir Rawicz,海津正彦
  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2007/11/01
  • メディア: 文庫
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研修会場までの6往復の間に読み終えた。第二次大戦中、ロシア軍に捕らわれ、シベリアで強制労働をさせられることとなった7人の男達が、収容所を脱出し、徒歩でインドまでたどり着く、という話。途中、同じく集団農場で囚われの身となった少女を同行させるところと、モンゴルやチベットの人たちの、旅人を無償でもてなすところが感動的。
何日も飲まず食わずで歩いて、慈悲の心に触れたときの有り難みや、極度の緊張の中でもユーモアを忘れない登場人物達、可憐な花のような17歳の少女が同行することとなったとき、父や兄のような庇護の心で全員が彼女を守り通そうとするところなどが、ノスタルジックなヒーローものの冒険譚的雰囲気と、ノンフィクション的リアリティの間を行ったり来たりするのである。
回想をまとめたもののようなので、うんざりするような人間関係のもつれとか、障害の生々しさなどが良い具合に抜け落ちているのだろうと推察するが、それにしてもシベリアからインドまで歩ききったという圧倒的事実の説得力の前に、都合良くつまんだかもしれない、などという批評はかすんでしまう。どこまでも快活で高潔、不屈の精神とよく耐える身体。高度に連携のとれた仲間関係。すばらしい読書体験でした。