ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

あの花。

「なに」
「ん?」
「なによ、そのにやけ顔」
指摘されるほどに唇の片方だけつり上がる。涼音はこの顔を「クラーク・ゲーブル気取りのばんばひろふみ顔」と呼んで、薄っぺらい表情ね、とくさすのを忘れない。
「知らん。そんなににやけているかな」
「散歩中に麻生久美子にあったみたいな感じよあなた」
「そんなに安くないよ僕は」
「じゃ何」
「ん〜、まあ、いいことがあったといえば、あったかもね」
「勿体つけるわね。話したいんでしょ」
「まあ、ね」
先週のレースなんだけど、タイムが大幅にアップしたんだ。昨年のに比べると、一割引きでさ。順位も目標クリアしたし。
でね、一緒のチームメイトの、そのまた友達が、やっぱり出場してたのさ。ショップのチームに入ってバリバリに絞っている人でね。タイムでは1分以上負けたんだけど、その人が青猫見て目を丸くするわけ。これで50分台出したんですか、ってね。うわースポークにリフレクター付いてる、とか。
我慢できずに「そりゃ、モビルスーツの性能の差が戦力の決定的差ではないですから、ね」って言っちゃった。
「っていうのを、思い出していたのさ。あれ?」
涼音は掃除機を出して掃除を始めるところだった。モビルスーツのあたりから興味をなくしたらしい。