ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

凍結世界/海草世界。

前日までウォッシャー液を不凍液にしたり、チェーンを装備したり、寒冷地化されたレガの最後の仕上げにラッセル用のスコップを放り込んで、準備は完了した。
次の日、朝2時にレガに火を入れて出発。3時に虫掛君と合流。後はひたすら運転。折からの寒波は日本海側に豪雪をお見舞いしていたが、東北道もその影響を受けて雪模様である。
「やっぱり降ってますね」
凍った路面を見ながら虫掛君がつぶやく。
「そーだね。虫掛君運転する?」
「いやー、遠慮しておきます。雪道慣れていないんで」
虫掛君はすでに助手席のシートに身を沈め、道中を睡眠時間の補充に充てる気満々で生返事をした。
「了解。時間に余裕がないし、東北道から赴任先までは下道の峠道だから、高速である程度稼がないといけない。多少スピード高めで移動します」
「仰せのままに」虫掛君は興味なさげに応えて、首枕をはめた。
路面は黒く輝いて、その上を煙のようにアイス・パウダーが渦を巻きながら横切るなかなか楽しいコンディションだけれど、じたばたしなければ普通にクルージングできる。たまにテールが暴れるけれど。
事故で通行止めになっている高速を途中であきらめ、予定より手前で下道に降り、峠を三つ越えた先にある職場にオンタイムで到着した。
前任の帝建のスタッフ2人を含む、東京からのチーム6人と合流し、それから派遣先の上司に挨拶をする。その後、仕事の引継方々日用品の買い物スポットと居住のレクチャー。職場から20キロ離れた山陰の僻地にある仮設住宅での生活が始まるのだ。
先達曰く「水抜きを忘れると大変なことになる。すべてが凍りつく寒い世界であることをわすれるべからず」
朝になるとシンクやトイレのトラップの形の氷ができており、稼働させるにはお湯の大量投入が必要。常にエアコンを稼働させておく必要がある。さらに外出時や就寝時には水抜きを確実に行うこと。忘れると水道管が凍り付く。忘れなくともたまに凍り付く。で、水抜きの栓は、今現在降り続く雪に埋もれてしまっている。これから発掘するから、水抜きの実践はその後に。
「恐ろしい世界ですね」虫掛君は醒めた目で言う。動じない人だ。
「そうだね」
翌日から試行錯誤しながらの生活が始まった。この時期、間引きワカメが市場に大量に出回るのだが、これは近所づきあいで貰うものらしく、挨拶代わりに大量のワカメとマツモが届けられる。傷んでしまう前に消費することがゲームの様相を呈していて、地元からレシピを集めて回る日々。挙げ句、我が仮設住宅は、ワカメ加工工場の称号を地元からいただくに至る。そんなひと月でした。