ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

帝都徘徊再開(おそるおそる)。

ちょっと木下先生、大丈夫なの?とは小函さんの第一声だ。久しぶりの「あぶらつぼ」は相変わらずの閑古鳥で、入り口脇の水盤に冷やしてある瓶ビールが客待ち顔だった。あらあら、そんな風でお運びいただいちゃって、大丈夫だったのかしら。もう馬場崎さんは先にあがってらっしゃいますけど、まあどうしましょう。とりあえずスナギモ、おしぼりとお冷やをお持ちして。小函さんのこのさえずるような甲斐甲斐しさを、木下は好もしく思っている。相変わらずくるくると立ち働くスナギモは、木下のサマージャケットを預かると中から出てきたコルセット姿に目を丸くした。
「先生、これって動きづらくないの」
「動きづらいように出来ているんだよスナギモ。固定するのが目的だからね」
「ふーん、なんか先生、動きがC-3POみたい」
階段を軋ませて2階にあがる。座敷のふすまを開けると、馬場崎はすでにくつろいでいた。不機嫌な顔の作りをしている馬場崎は、コルセットとカラーでがっちがちに固められた木下の姿を見て、ますます渋面になる。
「おまえ、何なのそのモノモノしい出で立ちは」
「背骨と首の骨、両方折るとこうなるんだ」
「これから夏だというのに、暑そうだな」
「多分、不健康に痩せるんだろう。筋肉が落ちて、脂肪はそのままっていう」
「その格好で復職するのか」
「ああ。当分、アウターフレーム付きの生活さ。ネゴシエイトやら説明会やらで同情を誘って落とす、という手が使えるのを期待しているんだけど」
「ふん」と鼻を鳴らす馬場崎に、木下はぎくしゃくとコルセットを軋ませて、ロボットダンスをしてみせた。いいギャグのネタくらいにしか思っていないのだ。少しのんきに過ぎるのが木下の悪いところで、そうはいってもこの状況をこれ以上改善させる手段もないのが、周りの人間をいらいらさせるらしい。帝健の本社ではすでに取締役会で話題になっていて、木下が職場でまずすることは、役員行脚である。
「木下もそういうまめまめしさを持っているっていうのが、違和感があるな」
「サラリーマン稼業の浮き世渡りって、こんなものさ。あっはっは」
そこへスナギモがおしぼりを持ってあがってきた。
「木下先生、お酒大丈夫なの?小函さんが今一度確認しなさいって。目が三角になってました」
「大丈夫だよスナギモ。お医者様にもお墨付きをいただいたんだ。持っておいで。きりきりに冷えた水芭蕉吟醸とかがいいな。あと茶豆と」

Lampの「恋人と雨雲」。サポートでギターを弾いている(ソロがキモチいい!)松尾由堂さんがリーダーのバンド「BONANZA」が7月にアルバムを出すそうです。

BONANZA

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