ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

サマータイム・ブルース。

通院で切り刻まれた木下の夏期休暇は残り2日で、CTの画像を診ながらうーん、と唸っていた医者が、次は11月にいらっしゃい、と告げるに至って、やっと好きに使えることが確定した。
自由な時間を手にしてみれば、さて何をするか考え込んでしまう。自転車の遠乗りは身体に障るし、かといってのほほんと温泉に浸かることだけが目的の旅行にも食指が動かない。難しい顔をしていたら小台風がやってきた。
「先生、先生ってば」
「なんだ涼音か」
「まあ、ご挨拶ねっ」
持ってきたオボンビュータンの冷菓を手早く皿に移し、オレンジペコを煎れて居間に運んできた涼音は、避暑よ避暑、軽井沢か清里かに行って気分だけでも盛り上がる、ていうのはどうかしら、とはしゃいだ。
「あれは晩秋がいいんだ。今いっても学生がいっぱいで、疲れるぜ、きっと」
あのかしましい汗臭い連中の、空気を浸食するあの雰囲気は、ご遠慮申しあげたいところ。そう、もっと静かで、夏が感じられるような…。
「よし、河口湖に行こう」
「いいけど、獲物はなに」
ハラダコレクション」
流しに置いた紅茶カップを洗うのもそこそこに、涼音の手を引いてエプロンに降りる。ちょっとまって、と言った涼音は、大ぶりの麦藁を持って戻ってきた。くるぶし丈の、細身のワンピースとよく似合う。
「なにニヤニヤしてるのよ」
「麦藁帽子の女の子と出かけるのは、素敵だ。今日の服は悪くないよ涼音。何だか盛り上がってきた」
「そうやって女性の努力を拾う姿勢は買うけど」涼音は嘆息する。
ピンぼけなのよねえ、致命的に。