ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

くちゆくものたち。

沼田ICから尾瀬方向に延びる国道120号線沿いに、ペンキ看板が何枚か掲示してある。曰く「オルゴール館」があって、「15種類のソフトクリーム」も食べられるドライブインがこの先にある由。楽しげな内容な割にはペンキの剥げ具合などうらぶれた雰囲気を醸し出すその看板群を、気にしながら、立ち寄らずに今に至る。
日本ロマンチック街道の難所である椎坂峠に、件のドライブインはある。昨年の始め、まだスキーシーズン真っ只中の2月に、ひっそりと閉店した。先の地震とそれに続くスキー場の営業縮小、夏場の学生達の合宿の減少が、この地味な集客施設の息の根を止めたのだ。
26年度には椎坂トンネルが開通する。尾瀬へのアクセスが20分短縮できるこのバイパスが出来れば、椎坂峠を通る道は旧道となり、訪れる人もいなくなるだろう。赤字しか生み出せなくなっていたであろうドライブインを見限り、早期に撤退すべしとの経営判断があったのやもしれない。多分、施設の解体費すら惜しむのではないか。斯くして15種類のソフトクリームが美味しかったのか、オルゴール館とは如何なる娯楽施設だったのか、実際に確かめる機会は永久に失われた。
今後トンネルが開通し、雪の予感に胸を奮わせたり、湿原の景色に心躍らせる人たちが車を走らせるその上で、ドライブインは黒く朽ちていくのだろう。
 
大漁/金子みすゞ
 
朝やけ小やけだ
大漁だ
大ばいわしの
大漁だ
 
はまは祭のようだけど
海の中では
何万の
いわしのとむらい
するだろう
 
いわしのとむらいには沢山のさかなが参加するのだろうが、椎坂峠の建物たちはいつまでも孤独のまま、静かに時を刻む。
そのたたずまいを確認するために、いつか自転車で旧道120号線と、椎坂峠を登ってみようと思っている。