ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

明日への想い。

「木下君これさ、もう後輪のグリスが全部抜けちゃってるぜ」
職場の輪行部とつるんで柳沢峠→御坂峠を攻めにいった。10月初旬のことである。他のメンバーのペースに全く歯が立たず、嗚呼加齢による限界とはかくもあっさり訪れるものかと気を落としたところで、自分よりも年かさの春山さんに「それは運動不足である」と指摘を受ける。しかも後輪から異音がしてくる秋の夕暮れの甲斐路であった。
メンテナンスで持ち込んだ自転車屋で言われたのが冒頭の台詞である。
板橋物置小屋からありったけストックパーツを持ちこんで、後輪周りを綺麗に組み直して貰った青猫は、しかしバーテープを巻かないようお願いしておいた。
これだけは自分で仕上げたいのである。高嶺の花のcinelli*1だってバーテープは安く手に入れることが出来る。ということでイタリアンなパーツを初めて使った。バーテープだけなのだけれど。
これからまた一つひとつ作り直していく。駄目だったらどうだというのだ。自分の末路を見届ける覚悟があるか、それだけのことだ。
「だってさ、他に何が出来るっての?」
と、半ば醒めて言い放った木下を、アラマキがしれっとした顔で見る。
「そりゃさ、あれだけ飲んだくれれば体型も変わるさ」
「まあね、そんな気分な時期だってある」
「振れ幅が極端なんだよ木下ちゃん」
「そうでもないさ。リビルドの楽しみを味わってる、といってもらおうか」
金曜日の夜、レガシィを飛ばしてたどり着いたクリアライトハウスは相変わらずの閑古鳥である。男と女がキャンドルを挟んで語らっているテラス席は、ガラス越しの夜景が弱い雨で覆われている。それを眺めるともなく目をやりながら、ヱビスビールを飲み干す。
「そのくらいにしておいたら木下ちゃん。尿酸値やばいんでしょ」
「ん。じゃボウモアのロックをダブルで」
「やれやれ」アラマキは首を振った。ゆっくり。柱にかかっているANSONIAの時計の振り子みたいに。

*1:と、思っていたのだけれど今はお手軽価格のモデルも出しているようですね。