ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

窓さんち。

レガシィに火を入れて暗い国道をすっとばす。およそ100キロの先、沿岸に窓さんちがある。
「よく来たねぇ」
新築の香り立つカウンターの向こうからひょっこり顔を出した窓さんは、人懐っこい笑顔で迎えてくれた。
津波に洗われた街に、窓さんは新しい米屋を建てた。だから帝建の復興支援班の運転手業は廃業で、米屋に逆戻りである。
そーいえばさぁ、と窓さん。車に乗ってる間ずっと木下ちゃんとは食い物の話ばっかりしてたけどさぁ、振舞ったことないよね。おいでおいで。
という電話で、今回沿岸で飲み会をすることになったのである。
「あん時立てた案内看板、全部撤去になっちゃったね」
「そうなんです。今やどこもかしこもかさ上げ工事ばっかりで、昔の街の姿なんてわからないですよ」
牡蠣をバターで蒸しながら、地酒で乾杯する。
まあ、酒飲んで幸せな気分になれる場所ができたのであれば、それは復興に向けて着実に進んでるってことなんじゃないかねぇ。飄々と窓さんが言う。
でもね、復興って、どこまでが復興なんだろうね窓さん。新しく街を作るって、大変だけど、終わりがないよね。
うーん、それを教えてくれるのは時間なんだろうね。どこまでが区切りなんて、誰にもいえないよぉ。木下ちゃんどこまでやる気?
僕はね、必要とされるうちはそこで働くし、淡々とやりますよ。
「そっか、そしたら、また呑みにこれるねぇ」窓さんは笑う。