ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

懐かしのバトルフィールド。

朝3時に起床。雑魚寝の部屋では他の人もそろそろ起き始めている。それでも静かに、寝ている人を起こさないように心拍計のバンドを着け、昨晩のうちにゼッケンを貼ったジャージを着込み、ウィンドブレーカーを羽織る。ハートレートモニター(相変わらずのCS400!*1)のスイッチを入れると、心拍数は50に落ち着いている。
今日は特別の日だ。
階下では朝食の準備が既に出来ていた。ご飯3杯、おかずも残さずに食べる。3日前から炭水化物を多めに取り、リバウンドを利用したカーボローディングを意識した。当日朝もたくさん食べること、とはフルマラソンのカーボローディング方法をどこかで読んだときに聞きかじった知識だ。早めにたくさん食べて、レース前にたくさん出すことが大事なのだ。
2012年5月に、僕は入院した。幸い1ヶ月で退院出来、怪我から2ヶ月で普通の生活に戻ることが出来たのだけれど、入院している間に、エントリーしていた第9回Mt.富士ヒルクライムDNS*2で終わった。
今日はそのリベンジの日だ。第13回Mt.富士ヒルクライム。相棒、というより武器は灰猫である。いままで然るべき活躍の場を与えることが出来ないでいたのだけれど、軽量のこのバイクに、富士ヒルクライムはうってつけのバトルフィールドだ。
駐車場のいいポジションを確保するべく、他の人より早めに宿を出た。
快晴の富士山麓。久しぶりに富士山を間近で見上げる。第15ウェーブまである選手群の、真ん中ちょっと前の第7ウェーブの一番前に陣取って、出発時間を待つ。周りでは絞った体型の人とファンライドっぽいゆったりした人が相半ばしている。みんな思い思いに時間をつぶしている。気圧の関係なのか、気温のせいなのかわからないが、突然近くのキャノンデールのタイヤがバーストした。途中トイレに行くとすごい行列だったが、時間には余裕があったのでしっかり軽量化した。
プラカードを持った係員がポジションに着くと、選手はそわそわと自分のバイクを起こしにかかった。数百台のバイクがざわざわと準備するさまは壮観である。この頃から戦闘モードに徐々に入り始める。ぴりぴりとした雰囲気が逆毛を立たせる。頭の中ではNegiccoがトリプル!WONDERLANDを歌い出している。最近のレースの時のアップの定番曲だ。BPMが合うのだ。

「第7ウェーブ、移動を開始します」
係員が号令を出し、クリートをカチャカチャいわせながら集団がゆっくりと移動を開始した。
「道を空けてください。第7ウェーブ通ります。道を空けてください。」
係員の掛け声をDead man walkingみたいだな、と思いながら進む。みんな無言だ。スタートライン近くの待機場所に移動してから、ここでまた30分ほど、自分たちより前のウェーブがスタートするのを眺めながら待つ。心拍は60台で落ち着いている。
スタートの号砲が鳴ったとき、僕はゆっくりと漕ぎ出して最前列からわざと少し遅れ目にポジションを下げ、足を使ってしまう愚を避けた。少しゆっくり気味くらいでいい。計測区間が始まるまでパレードを楽しむ。やがて料金所のゲートが見え、富士スバルラインに次々に自転車がとりついていく。計測ラインを超えると同時にサイコンのスイッチを入れた。このとき、ハンドルには1時間15分切りのシルバータイム用のラップチャートと、1時間30分切りのブロンズタイム用のチャートを貼っていたのだが、5km過ぎる時点でタイムは19分40秒。この時点で17分程度のタイムが必要なシルバー狙いはあっさり放棄し、ブロンズに焦点を合わせる。心拍159bpm。
10km、37分10秒。心拍156bpm。心拍が安定していて乗りやすい。今まで心肺機能を重点的に鍛えてきたのが効いてきたのか。ラン主体で作った身体は、自転車用の筋肉が強化されているわけではない。武器は心肺だけだ。隣り合ったライダーの呼吸音を聞いて、意識してそれよりも深く、ゆっくり息をする。
15km、56分。心拍153bpm。
20km、75分5秒。心拍152bpm。
21kmあたりからフラットな路面になって、スピードの合う人とトレインを組む。一挙にスピードが30km/hを超えるが、最後の登りですぐに減速する。そこまで行くと声援も「あと1kmがんばれ!」とか「最後の登りだよ!」とか、ゴール近くを感じさせるものになってくる。既に上り終えて下ってくる人からも「頑張れ!」「もがけ!」と気合いを入れられる。
そのころ僕は、乳酸の痛みをいなしながら最後のスパートのタイミングを図っていた。
ゴールまで500mを切ったところで、隣で突っ込みかけていたライダーに「行きます」と声をかけ、最後に残っていた脚で引き足気味に灰猫を進ませる。もう後は耐えるだけだ。
1時間25分切りでゴール。
やあ、ヒルクライマーのみんな、僕は、帰ってきましたよ。また一緒に遊んでください。

*1:windows10に環境を移行したとき、赤外線通信が使えないことを知って愕然とした。CS400とパソコンのデータのやりとりは赤外線で行われるから。今更環境を変えるつもりもなく、ネット上の情報を探しまくってなんとか環境を整えることが出来て一安心。→http://www.taroumaru.jp/main/irda_windows10:title=IrDA

*2:Do Not Startの略。DNF(Do Not Finish)とか、レースの時に使う用語。