ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

微熱はつなつ。

風には夜露の湿り気が混じっていて、初夏の香りがする。広い駐車場の真ん中に水銀灯が円錐形の明かりを投げかけていて、それに照らされてうずくまる深夜高速バスは週末の客を満載している。
東北から東京に戻ったのはこの春のこと。板橋物置部屋は手狭で(何しろ物置部屋に強引に生活道具を割り込ませているものだから)、しかし急いで引っ越しするほどの余力もなく、どうせ日中は外に出ているし、休日だって家でゆっくりすることなんてないから、と居直る。まずはリネンを洗いに出して、プロテインを作る。ウェイトの計測と記録。それから朝のラン。日常はだんだんと組みあがり、組みあがったからくりが軋みながら動き出す。ルーチン、ルーチン、ルーチン。
ひんやりしたサービスエリアの空気を吸い込んでから、バスの中に戻る。なんていうか、布団の中みたいな湿気を感じながら、座席について目をつぶる。
東北にいた時から、朝のランは習慣になっていた。だんだん出来上がる身体を見るのは楽しい。それと同時に、タイムが上がり、VO2maxも上がり、ハーフマラソンでで90分を切り、フルマラソンで4時間を切った。
そして、少しづつ過去のわだかまりめいたものがほどけていく。これも面白い。だんだんと自由になる。
消灯されたバスの中で一人にやにやする。なんたってこれから、東北に行ってフルマラソンに出るんだからな。