ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

バイシクル、バイシクル。

草野球というのが、素人が集まってする野球の意味だという。その語源を想像するに、整備されていない草ぼうぼうの原っぱでやるから草ぼーぼーの野球→草野球なんだろう。では草レースは?
やはり素人が集まってするレースのことであるからして、草ぼうぼうのコースを使ってレースをすることなのだと思いきや、日曜日に開催された草レースは、草ぼうぼうのコースどころか!プロユースのレース場です。一周約4.6kmのFIA公認サーキット、そ・の・名・も・富士スピードウェイエンデューロレースに出走してきました。
ことの起こりは一通のメールからでした。春山さんからのそれは簡潔にして明瞭。「レースに出るので、面子確保よろしくお願いします」
自転車乗りでレースに興味がある人といえば野田急の堀田さんがいる。誘えば付き合ってくれるだろう。あとひとりくらい欲しいところだけど…と色々物色していたら、ひとりいました。新人の利根田君。趣味は自転車らしく、コルナゴの良いチャリンコを持っているらしい。コンサルタントから転職してきた利根田君は、反応が鈍くて会話が成り立たない、暗い眼をした男で、きっと前の会社でいじめられていたのだと思う。
「利根田君、自転車レースに出よう」
「…」
「…」
「…はい」ずるっ(←木下がコケた音)
「出るのね?」
「…はい」
「練習しないとね」
「…はい」
「利根田君、三点リーダーがないと喋れないのか君は」
「…?」
「いいよいいよ、ただの冗談」
なんか調子が狂うのである。
さて、土曜日である。春山さんは準備万端で、もと自転車部主将だった堀田さんもやる気十分の返事をいただき、かくしてチーム帝建は戦うことになったのである。戦うためにはまず、壮行会が必要なんである我々は。気分を盛り上げなければいけないんである。というわけで、宿泊地となった大雄山駅周辺の居酒屋「だんまや水産」で、僕らは気勢をあげた。酔っ払うと脱いで店内を走り回る癖のある春山さん*1は、今回珍しくおとなしかった。堀田さんはもともとクールな人なので、大騒ぎはしないのだけど、普通に飲んでいて面白い面子なのである。利根田君だけは黙って飲んでいたけれど、どれくらい他人の領域に踏み込んでいいのか分からないのだこの人は。時折中途半端に恐る恐る口を開きかけて、メートルの上がったおっさんの話にかき消されていた。こういう手合いはからかうでも無視するでもなく、自然に溶け込んでくるのを待つしかないのだ。どうかそれまで、卑屈に染まったりしませんように。
日曜日はそんなわけでやる気充分で会場入りし、31番ピットに陣を構えた我々は、ミーハー根性丸出しで写真を取り捲った。だってF1も使ったピットの、ピットレーンでたむろっているんだもの、気分が盛り上がらないわけがない。
9時、チームオーダーは年齢順ということに決まり、4時間耐久レースのスタートに春山さんが向かっていく。スタートラインがみるみる色とりどりのウェアーに埋まっていき、1000人からのレーサーが出走を待つ状況は壮観だった。朝早くに試走が出来たらしいのだが、そんなに朝時間に余裕があるわけではなし、ぶっつけ本番である。
1周目は混乱を避けるためペースカーが入り、2周まではピットはクローズする約束で、3周が終わった時点で交替と決めていた。戻ってきた春山さんは「最後の登りがきつすぎる!」と息を切らしながら言った。それを聞いて「やっぱり下りで稼がないと勝ち目が無いよね〜」*2とぼやきながら、ホームストレッチ先の下り右カーブから攻めることにした。バトン代わりの計測チップを付け終え、ピットレーンからホームストレッチに向けてケイデンス高めで入っていく。みんな外側に膨らむ中、スキール音を響かせながら怒濤のハングオフを決め、ていうのは大げさながらゴボウの笹掛け抜きくらいはし、登りでヒイコラいいながら3周を3セットした。ベストラップは7分30秒。
フェルディナント・ヤマグチさんが走っていたのにはびっくりでした。負けましたけど。
帰りは温泉に入って、馬鹿話しながらドライブ。利根田君は疲れた顔で黙っていたので、一番帰りが遅くなるのを気遣ってみんなで「寝といた方が良いよ」と勧める。僕が「起きていてもどうせ(僕らおっさん等は)馬鹿話しかしないから」と言ったら「あ、僕が(馬鹿な話しかしないってこと)ですよね…」というお返事をいただき、おっさん等一同「とーねーだー!」ってずっこけてました。「利根田君、ゆっくりおっさんにおなり。これから君には沢山面白いことが待ってるんだ」とはいわなかったけど、なんか励ましてやりたい。でもそれを言葉にしても、利根田君には響かないだろう。痛々しい精神構造であることは判った。ホント、ゆっくり成長して欲しい。おっさんワールドは楽しいぞ。

*1:以前、大島に職場旅行に行く僕らを酔って見送りに来た春山さんは、極寒の中パンツ一丁で出航直前の船に近づこうとして、警備員に羽交い絞めにされていた。無駄にいい身体を見せつけようとする人。

*2:ほかにレーサーを持っているわけじゃなし、当然僕の乗機は青猫である。