ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

NEMU-REN-AI

宵口によしなし事をつらつら考えるのにうってつけの季節なので、最近夜が楽しくてしようがない。ここのところ偏頭痛のようにつかず離れずつきまとっているもやもやした悩み事との対峙やら、読みたいと思っていた本やら、週末の約束のための仕込みやら、そんなことを逐次こなしていると目が冴え渡ってしまって、困ったことになる。っていうか、なっている。
とにかく、まどろみが訪れないのである。風の通る板橋物置部屋に寝苦しさは皆無で、快適な夏なのにも拘わらず、ベルベットのような手触りの、あの適度に重みのある、少しウェットで、そして懐かしい香りのする眠りが、僕の手からすり抜けてしまう。
そういうとき、磨き物をするのが夜の日課になっている*1。まず靴。今のビジネスシューズのローテーションは、スタンダードな、重たいプレーントゥとストレートチップで、これは磨き甲斐がある。うっすらと光沢のある膜が掛かったみたいな鈍色に光る靴を見るとうっとりする。それは職人が手作業でたたき出したロンドンタクシーのオーバーフェンダーみたいな趣。
次は水回り。銀色の物が銀色であれば世の中大抵上手く回ることになっているので、シンクまわりは課題の山である。普段使っている鍋や、お気に入りの、絶妙な重さとバランスのフライパンも磨く。磨きすぎると油が切れて焦げ付くことになるのだけれど、かまうものか。また磨けばいいんだ。夜はたっぷりある。
思い切って外に出ることもある。蒸してはいるが肌に優しい温度の大気が異様に気持ちがいいのである。首都高5号線も静かに流れる深夜、一般道を通るのは猫と僕くらい。夜の帝国の皇帝であり臣民である僕と猫。どちらが王でどちらが民なのかわかったものではない。天体望遠鏡を持ってきて大気に揺らめく月を見ては、ああやっぱりお湯に溶けるシュガーボオルのようだ、と独りごち、猫は同意すらせずに大きなあくびをしたり。
いきおい、昼間は何となくふぬけた感じになってしまってよろしくないのだけれど。仕事は比較的順調に進み、今のところは差し障りはない。
でもそろそろ仕事的ビッグ・ウェイブが来そうでは、ある。
それまでに僕に戻ってきて欲しいのだ、あの自分勝手で気まぐれな、じゃじゃ馬な彼女のように一筋縄ではいかない、スウィートでちょっとビターな、眠りってやつに。

komupiさんのyoutubeチャンネルで見つけた映像。素敵。

*1:夢の導きに従い。