ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

あぶのーまる・ばけいしょん。

頸椎の固定も上手くいってるし、ま、いいでしょ、と主治医が退院許可を出した。ただし、数週間は自宅療養すること、という条件付きで。
「ふーん、いいご身分ですねぇ」と、ワイシャツに黒のチョッキを羽織った中目黒君は枯れかけた見舞いの花を千切っている。今日は全体にブリティッシュトラッドで揃えている中目黒君は、細い銀フレームの丸眼鏡を光らせて、上目遣いで恨めしそうに僕を見た。
「定期考査の問題作成、手伝ってくださるのではなかったでしたっけ」
「ねちっこい男はモテないぜ中目黒君。しょうがないよねドクター・ストップなんだもん」
「で、退院の手伝いはしっかり僕にさせるのですね。先生のファンとやらにさせればよいのに」終いに面倒くさそうに束ごとゴミ箱に放り込んだ。
「切り花、見事に散りかけばかりですね」
「退院が見通せた時点で、持ってこないようにお願いしたんだ。揃って寿命を迎えたものだから、なんとなく殺伐としちゃってね」と応える僕は、全身装具で固めているとはいえ毛脛をアグラに組んでベッドの上に座り、団扇で風をゆるゆると自分の顔に送っている。ロンドンストライプのバミューダパンツに、くたびれた水色のポロシャツという出で立ちだ。
「なんだか、ハラのたつ服装ですね」
「盛り上げてるのさ。休暇とったつもりにでもならなければ、やっていられないよ」
「ベッドの上でバカンス?」
「そう。気分はマイアミかニースかってとこ。これでウクレレとビーチパラソルでもあれば…」
「立派に場違いな人が出来上がる、と。はやく社会復帰しないと、取り返しのつかないことになりそうな気がしますが」
「なーに、すぐ戻るよ。12時間もありゃジェット機だって治らぁ、ってね」
「治した飛行機が家に溢れますが。編隊飛行でもするつもりですか先生」
とりあえず暫くは、ギターの練習でもしてます。