ひみつ基地

ひみつ基地暮らし。

創 作

はつこい。

一本棹の舟を操って、阿螺川を横切る。セイタカアワダチソウの群生のなか、ひとところだけミヤコアシが茂っているのが入り江の目印だ。水面を漂うペットボトルや藻に覆われた人形を掻き分けて、舳先を茂みに突っ込むと、魔法のように舟は茂みを通り抜け、船…

サーヴィス。

嘘つきでいい加減な人生を送ってきたから、それなりの結果としてここにこうして暮らしている。不満はない。自分の投資に見合った回収ができているか、とか、いちいち気にしていたら、神経衰弱でアルカセルツァーがいくつあっても足りない。自分の一歩一歩の…

星の。

巻き毛はあくまでも愛らしく、いたずらっ子めいた瞳の輝きもそのままに、彼は立派なおっさんになっていました。はるか昔、バラの花と恋に落ちた純真無垢なその精神はいまやふてぶてしく、その日暮らしの不確かさに揺らぐことのない頑強さを持つようになって…

小学生男子的妄想夢。

プロローグ 自転車に乗った小学生くらいの男子って、だいたい同じようなことをしたり、想像したりしています。定番としては、ぶぃーん!てオートバイのエンジン音の口真似をして走るとか。それから坂道をブレーキなしに駈け下るチキンレースも。たいがい誰か…

チェリッシュ。

身体を拘束していた土砂が流れると、久しぶりに機械は動けるようになった。左腕のアクチュエーターと、右足のダンパーがおかしくなって、移動するときは変なリズムがつくようになっていた。 市松模様のタイルが敷き詰められた袋小路に、その機械はいた。かつ…

いつか見た青空、っていう題のお仕事。

「せーんせ?ちょっとは進んだ?」 とんとんとん、と軽やかな音をさせて階段を上がってきたスナギモが、ほうじ茶とたくあんの載ったお盆を置きながらたずねる。 「いや、全然だね。スランプって言うんだろうかねこういうの」 ここ二日ばかり「あぶらつぼ」の…

孤独な球体

重力発生装置のスイッチを入れると、ブーンというアクチュエーターの音が小さく響きだし、しばらくすると風が流れてきた。というより、船体が一定速度で回転を開始したせいで、止まっている空気が攪拌されはじめたという方が正しい。Itabashi Ermitage 2008…

こんな夢を見た。

あだ名をつける。以下、つけたあだ名とコメント。 「2008年のミス・おでこ」/70点。おでこ気に入ってるし。「どんぐり」/35点。どういう意味よ。「ぼやけた六等星」/採点対象外。どういう意味よ。「前髪ぱっつん」/60点。未来君前頭部しか見ていないのね。 …

メモ

■結婚式が終わって、帰る段になって僕の引き出物袋に少し大きめのホールケーキの箱が入っていることに気がついた。馬場崎らしからぬ桜色の一筆箋に、これは馬場崎らしい角張ったボールペンの字で、茜ちゃんへのお土産です、としたためてある。これから家に帰…

豚を盗む

全然進まないプロットながら、いつかは書き上げたいと思っている文章のコア。酒の入った男は語り始めた。以下、メモ。 俺たちは生きるために豚を盗まなくちゃいけない。理不尽であるとか、スタイルに合ってないとか、そういう個人の感情とは関係なく、豚を盗…

クローム都市

ビルの屋上から東京の街を見下ろす。莫大なエナジーの消費を表す赤や青のネオンに照らされた五月の細かい雨が風にあおられて軌跡を曲げるのが見える。それが空気の流れを教える。 濡れた車のボンネットが妙に生々しくネオンの光を映す。雨に濡れた街は妙にき…